ー ORDINARY ー

※ 登場人物はすべてフィクションです。車と楽器とフィクションに塗れた会社員の日常を、のんべんだらりと書き綴っています。

新山、シルビアからの乗り換えを検討する。

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北海道から帰って1ヶ月ほど経ったある日。「暇ですか」とのメールに応じて新山氏の実家まで出向くと、庭が上記の写真の状態でした。


「何ですかこれ」

「笑’s・コンパクト焚き火グリル・B6君。焚き火台だね」


当時まだゆるキャン△がアニメ化されていない、2016年9月の話です。私は目を疑いました。


「小さくね?  こんなんで焚き火出来るんですか」

「できる。しかも折りたためるんだよこれ。ライダー御用達の小サイズ。こないだの北海道旅行で、インテさんが使っててさ。『いいですね』って話したら、『貸してやるから、しばらく使って気に入ったら買うといいよ』とのことでお借りしました。余った炭もあることだし、肉でも焼いてテストしようと思ってさ」


笑’s。埼玉県の誇るキャンパー兼板金屋さん、高久笑一氏による焚き火台ブランドです。耐久性と簡易組立性、収納性を突き詰めた小型焚き火グリル、A-4君・B-6君がメイン商品。2018年にゆるキャン△とのコラボモデル、「B-6君・リンちゃんのYAKINIKUセット」が発売されて話題になりましたが、それ以前からキャンパーの間では名品と評判になっていたようです。

 

笑’sホームページ

http://www.sho-s.jp


「成り立ちが国内ギタールシアーみたいだな……」

「あー工房モノのギターみたいな?  分かる気はするね」

 

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実戦投入時の写真。サイドから見たロゴがよいです。

 

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近所のスーパーでビールと肉を買い込み、炭と着火剤を投下。少しばかり涼しくなった庭にキャンプ用の椅子を出して、焼肉を開始します。


ちびちびと肉を焼きながら、「結構火力上がりますねこれ」「設計がいいんだろうね、下から空気入りやすくなってるし」などと感想をまとめていると、ポツリと新山さんが話を変えてきました。


「そういや、最近、バイク降りようかと思っててさ」


なお、この一年後にホンダ・CB400からホンダ・ゼルビスに乗り換えている上に通勤もバイクになる新山さんですが、それはまた機会があれば書き記します。


「唐突だね」

「北海道から帰って、やるこたあやった感が出てきてね。元々おれ、どっちかっていうと車派の人間で、バイクに興味出たのって大人になってからだしさ。これから先、バイクに掛かってる時間と金を車に投下した方が、密度濃くなるんじゃないかって思い始めてきまして」

「『選択と集中』ってやつですか。そうなるとシルビアに投資すんの?」

「いやー実はそこもねえ」


言い澱む新山さん。今回の本題に突入します。


「最近、他の車が気になり始めて」

「……といいますと?」

「この先、いつまで好きな車に乗れるんだろうって考えちゃうんだよね。維持費と利便性、ましてこの先子供なんか出来たら、日常使いで乗ることとチャイルドシートのこととか考えると、4人乗れるとはいえ、2ドアでMTのシルビアってわけにもいかないでしょ。ーーしかもおれ、最近遠出増えてるんだよね」

「キャンプ始めたし、旅行にも行ってるね。冬なんか結構あちこち出かけてたでしょ。こないだ、真冬の月山に温泉入りに行ってなかったっけ」


しかもシルビアで。よくスタックしなかったなとつくづく思います。


「そう。そうなんですよ。となると、荷物が詰めて、安楽に走れて、雪の深いとこでもどこでも、懸念なく突き進める車がいいなあと思うようになりまして。ーーシルビア、特におれのオーテックバージョン、街乗りだとどちらかというとダルな車だからね。低速のトルクないんですよ。ターボのスペックRと比べると、NAのシルビアはギア比も全然違ってさ。あっちの方がトルクもあるし。ぶん回せば別だけど、ある意味コペンの方がキビキビさは上だと思うよ。……おれのシルビア、高速で6速巡行の状態から加速できないからね」

「そういえば、坂に差し掛かるときわりと5速にシフトダウンしてるよね。ーーとなると、これ以上バイクにかける金があるのかと?」

「そういうことです。まずは車に振り切るところからかな、と。あ、実はこないだ、ラパン試乗してきたんですよ」

「軽じゃん! 高速巡行とトルクの話はどうなった!」


シルビアに乗ってる人間がラパンを見に行くことがそもそも稀有だとも思います。


「いやー、維持費考えると、まず候補に上がるのは軽かなと。家族できたら乗るのおれだけじゃないしね。特に最近の軽は高速もそれなりに走るし。それに、結構侮れないよラパン。初代のSSグレードなんか元気いいって評判だったからね」

グランツーリスモにも出て来てたね」

「5ね。それに現行ラパン、Gグレードだとミッションが5速AGSってやつなんだよ。機構はマニュアルと一緒で、クラッチとシフト操作をオートでやるタイプ。おれCVT苦手なんだけど、これなら挙動も違和感ないんじゃないかと思ってさ。しかも軽い。650kg。シルビアの半分弱だぜ。絶対楽しいでしょ」

「元がアルトだもんね…。新型のアルトならおれも会社で乗ったけどよかったよ。キビキビしてて。で、どうだったの?」

「案の定よかったです」


どうもこの男、別にスポーツカーが特別好きというわけではなく、工業製品として車全般が好きなようで、シルビアとラパンを同列に並べて語れる辺りやっぱり面白い思考構造をしてるなと思います。


「あと、コペンも見に行った」

「え。ひょっとして同じとこ?」

「そう。すぐそこのダイハツ。案内してくれた人も同じだったみたいで、地元の友達が乗ってるって話したらすぐ分かったよ。念のためシルビアの下取りも見てもらったんだけど……、珍モデルとはいえ、やっぱりターボ付いてないと人気ないみたいでさ。『私も昔シルビア乗ってたんですが、乗れるうちは乗っといた方がいい』って言われた。そりゃそうだよね」


候補車のチョイスの訳がわかりませんが、聞く限りラパンは「長く乗ること」と「楽しさ」のバランスを考えて絞り出した選択肢であり、コペンは「維持費とリセールの強さ」を踏まえて「短期所有のファンカー」に振り切って出てきたものと思われます。結構よく考えています。


「ただまあ、一番気になってる車があってさ」

「何」

「サファリ」


またえげつない車が出てきました。

 

「エクストレイルのお化けみたいなやつか」

「すごい言い方するね。サファリの方が歴史全然古いんだけどね」


日産サファリ。トヨタランクルと並び称されるオフロードカーの筆頭格であり、今では絶版となってしまった大型四輪駆動車です。山岳救助隊が愛用している、紛争地帯でゴリゴリに使われている、サスペンションからしてトラックやらジムニーやらと同じリジットサスである、などなどから分かる通り、昨今のSUVブームとは一線を画する「走破性全フリ」という性質の車です。


「一番ヤバいけど一番納得感のあるチョイスだね」

「でしょ。大排気量。有り余るトルク。図体のデカさ。走破性。欲しい要素は全部満たしてる。完璧です。問題は燃費と税金だけだね」

「何リッターあるの排気量」

「4.8L」

「4.8L」

「ついでに燃費は4とか5Km/h」

「存在がアメ車じゃん」

 

男の夢である「スペックで笑いが取れるタイプの車」のようです。

 

「用途を考えるとそんなにおかしなスペックでもないんだけどね。今のSUVと比べるとたしかに諸々デカイと思う。ロマン枠であることはたしかだね」

 

ほしいのは最終モデルである3代目のY61型、4.8Lガソリンエンジンモデル、デフロック付きの仕様だそうです。維持費は単純計算でシルビアの倍。そりゃあバイク離れを考え出すのも分かります。

 

「なるほどね。……でもまあ、デカくて安楽な車ほしくなるのは分かる気がするなあ。近場のドライブスポット粗方行き尽くしたせいか、年々一回辺りの航続距離が伸びてるもんね」

「関東圏なら『ちょっとそこまで』って感覚は付いてきちゃったよね」

「そうそう。こないだの北海道も、青森から東北道使って自走で帰ってきたんだけど、やっぱりコペンじゃ少しキツかったんだよ。100km/h巡行しようとすると4,000rpm近く回るからやかましいし、休憩しようにも2シーターだからシート倒せないし。A3みたいに、クルコンでも付いてれば500kmくらい安楽に走れるんだけど」

「マニュアルじゃそうもいかないしねえ。ーー『年をとるとゆったりトルクで走りたくなる』って車レビュー記事、昔からよく読んだけど、あれってホントなんだな」

「体力の低下と行動範囲の拡大ですかね」

 

こういうときに年をとったなあとしみじみ感じます。趣味嗜好の変化というか拡大。食い物の嗜好とかもそうですよね。

 

「ただまあ、普段使いじゃ間違いなくコペンが一番楽しいと思うんだよね」

「それ。多分シルビアもそう」

 

新山は、シルビアの場合は街乗りのトルク不足があるからまた少し違うと思うけど、と付け足した上で、

 

「おれも、峠道なんか走ろうものなら『やっぱりシルビアがよかったなあ』ってなるんだろうしさ。その辺はホント選択だよね。いやでもサファリほしいよサファリ。ああいうどデカイ車でのんびり走るって感覚味わったことないしさ。あれはあれで楽しいんだろうなあ。気になるなあ」

 


オチから言うとこのしばらく後、謎のエンジン息継ぎ現象の解決の為にO2センサー交換に手を出したことをきっかけとし、新山氏はやっぱりシルビアをいじり続けることになり、足回りのゴムブッシュを全交換し、タイヤをミシュランに換え、オーテックバージョン対応マフラーをヤフオクで競り落とし、ロールバーを増設し、シルビアはその性能(主に直進安定性と運転手のやる気を高める気合い度)を着々と上げていくことになるのでした。

 

そうこうしつつも、他の車への興味は完全に消え切らないようでして、主に「常用回転域でのトルク感」を軸にあれこれと車の物色を続けていくことになります。次はそんな中、「NAのシルビア乗り」にとって避けて通れぬ「ターボ」についてのお話です。


続きます。