ー ORDINARY ー

※ 登場人物はすべてフィクションです。車と楽器とフィクションに塗れた会社員の日常を、のんべんだらりと書き綴っています。

安藤、アウディA3を買う、その1。

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現場研修中お世話になった方々とは、車の話をする機会が結構ありました。

 
セリカ乗りのラフェスタ課長。土井さんの愛車をランエボと間違えていたアテンザ主任。念願叶って買ったフォレスターをぶつけられ「フォレスター(旧型)がフォレスター(新型)になった」と遠い目をしていた同期。少女時代にどハマりし、愛車のヴェルファイアをテヨンの痛車にしようか迷っていた職人さん。
 
他にもいろんな人がいましたが、今回は安藤という後輩と、アウディの話をします。
 
 
川崎の同期、安藤。細身で控え目な性格ながら、不思議と毎月結構な受注額を取ってくる営業マン。
 
この男、ヘタレなのか度胸があるのかよくわからないところがあり、先輩に勧められるままアウディのディーラーに行き、勧められるままA7に試乗させられ、900万円オーバーの見積もりをもらって帰ってきたという伝説を持っています。
 
「なんで見積もりもらったの!」と尋ねると「いや、いい車だったんで…」と答える辺り、結構な大物なのかもしれませんが、本人もこれ以来アウディは気になり続けていたらしく、先日私のフロアにやってきた際、ちょっとした相談を受けました。
 
「車を買おうと思ってるんですけど…」
 
「何。ひょっとしてA7じゃないだろうな」
 
「違いますよ。アウディアウディですけど。A3が欲しいんです」
 
A7のときよりやや現実的なターゲット。今回はどうも本気のようです。
 
「別に前回も冷やかしだったわけじゃありませんよ! 前からアウディは気になってたんで、輸入車ってどんな感じなんだろうと思って行ってみただけです」
 
「にしてもおまえA7は…。Eセグメントじゃん。2つくらい飛び越してるだろ」
 
「リアのデザインが好きですって話したら、せっかくなんで乗ってみませんかって言ってもらえたんですよ。買えないし、断ろうかと思ったんですけど、滅多にない機会じゃないですか
 
建築学科出身で、デザインも少し学んでいたという安藤。元々アウディの曲線的なデザインが好きで、迷っていたところでハイエンドクラスに触れたことで、アウディ好きが決定的になったようです。
 
「一年間追加でお金貯めて、ようやっとA3が予算内に入ったんです。それでもローン組むんで、支払いは結構キツイんですけど、それでも欲しくて…」
 
アウディかあ。正直高いよねえ。グレードは?」
 
「クアトロも気筒休止もいらないので、一番下のグレードで十分です。1.4 TFSI」
 
「ええと、…308万円か。オプションと諸費用付けたら400万円いくでしょ。 これ相当キツイんじゃない?
 
「キツイです」
 
「それだけ予算あれば他の車も選びたい放題でしょうが。四駆がいらないなら同じプラットホームのゴルフがあるし。国産は?」
 
Cセグメントが欲しいんですよ。そうすると、国産より輸入車の方が強いかなって。インプレッサとか、アクセラとかも好きなんですけど…。とにかくアウディに乗りたいんです!」
 
バーン、と机を叩く安藤。
 
「就職したら車買おうと思ってたんですけど、いざ買おうとしたら何買えばいいのかわからなくて。悩んでたとき、仕事帰りの夜に、A7を見たんです。初めて車に色気を感じました。迫力のシングルフレームグリル。Cピラーの緩やかな傾斜。上品に垂れ下がったリアテールランプ!もちろんA3とA7は全然違います。でも、フロントはちゃんとアウディのファミリーフェイスだし、リアはあれはあれで可愛らしくて好きだし。何より内装のデザインが、A7のエクステリアに感じたものと同じ色気があるんです!緩やかな曲線が…」
 
〜中略〜
 
「…わかった。おまえがアウディ好きなのはよーくわかった。で、何迷ってんの? 相談に来たって話だけど、それだけ好きなら買えばいいじゃん」
 
「いや…。金額が金額なんで、やっぱり誰かに背中押してほしくて…」
 
こういうところが安藤の安藤たる所以ですが、気持ちはよくわかります。人生で経験のないレベルで自分のお金を動かし、資産購入をするわけです。ビビって当然です。
 
「梁井さん、たしか家の近くにアウディのディーラー出来たって話してたじゃないですか。試乗とかしに行ってないんですか?」
 
「行くわけないじゃん。自分で買うわけでもないんだから。安藤こそ、そんなに気になるなら、川崎でも誘って試乗して来なよ」
 
「なんで川崎さんディーラー試乗に誘うんですか!」
 
「いや、その代仲良いから。こないだもラブライブ皆で見に行ってたでしょ。しかもその代で、多少なりとも車に興味持ってるの川崎くらいだし」
 
「誘うならもっと別の場所に誘いますいやそうじゃなくて! 試乗は、そりゃしましたよ。すごく楽しかったです。けど、舞い上がっちゃって乗り味とかよく覚えてないんです。梁井さん、最近車買ったばっかりじゃないですか。印象聞いてみたかったんですよ」
 
「おれだって乗り味なんかよくわかんないよ。サスペンションとかエンジンの仕組みもほとんどわかってないんだから。安藤の方が、理系だし調べればすぐわかると思うけど。…まあでも、いいんじゃない? 買っちゃえば。それだけ欲しくて、支払いの目処もついて、しかも乗って楽しかったなら、買わない方が絶対後悔するよ。万が一買った後どうしようもなくなったら、そのときは手放せばいいよ」
 
「はあ。そんなもんですかね」
 
「そんなもんです」
 
 
もうちょっとだけ考えてみます、と言って安藤は去っていきましたが、これ以来、「輸入車を買う」もしくは「質感の高い車を選ぶ」とは、一体どういうことなんだろうと考えるようになりました。
 
私の周りにも、輸入車乗りはいないわけではありません。年上の友人には、ゴルフ5、2代目TTを愛車にしている人がいます。
 
が、いずれも中古で、しかもかなり安く手に入れたと聞いています。プレミアム寄りの輸入車を、それも新車で買おうとしている友人は、さすがに安藤が初めてです。
 
国産と輸入車の特徴的な違いは何なのか。質感が高いとはどういうことなのか。動力性能に差はなくても、高い車はなぜ高いのか。
 
その答えを出すために、仕方なく、あくまで仕方なーく、私はアウディにA3の試乗を申し込むことにしました。嘘です。興味本位で輸入車乗ってみたかっただけですすみません。
 
そんなわけで次回、ディーラーでいろいろと話を聞き、実際に乗せてもらった感想と、安藤のアウディ購入記の顛末を書こうと思います。車にもいろんな価値基準、魅力があるんだなとしみじみ感じた試乗でした。興味が広がりました。
 
続きます。