ー ORDINARY ー

※ 登場人物はすべてフィクションです。車と楽器とフィクションに塗れた会社員の日常を、のんべんだらりと書き綴っています。

新山さん、黒塗りの高級車を買う(日産 フーガ 370GT Type-S)。

シルビアとの涙の別れを経た新山さんが、新たな愛車として選んだ車がこちらです。

 

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◯日産 フーガ 370GT Type-S Y51後期型(2015年式7AT)

エンジン:VQ37VHR型 V型6気筒 DOHC 3,696cc(NA)

ボディサイズ:全長 4,980 × 全幅 1,845 × 全高 1,500 mm

ホイールベース: 2,900mm

トレッド:前/後 1,575/1,570mm

タイヤサイズ:245/40R20

車重:1,770kg

最高出力:333ps(245kW)/7,000rpm

最大トルク:37kg-m(363N・m)/5,200rpm

変速比:(1~7/後退)4.783/3.102/1.984/1.371/1.000/0.870/0.775/3.858

最終減速比:3.357

最小回転半径:5.6m

 

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「サファリじゃないのかよ!」

「違います。日産が誇る大排気量V型6気筒NA、VQ37VHR型エンジンを積んだFRセダン、フーガです」


まさかのEセグメントです。たしかに以前ツイッターで、

 

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などと呟いているのを見はしましたが……。


「意外だけど、スポーツセダンが気になる、てのはずっと話してたよね。走る、止まる、曲がるの性能を考えると、やっぱりセダンかクーペになるって」

「そう。サンバーのおかげで、良くも悪くも四駆と車中泊に幻想を求めなくなったところもあってさ」


ハチャメチャに四駆軽バンを満喫していたように見えるのですが。


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「いや、実際楽しかったよサンバー。ホントに楽しかった。遅いし、サスフニャフニャだし、あちこちからガタビシいうけど、運転していて謎の楽しさがあるんだよね。情報のフィードバックが運転手にしっかり来るからかな…。車を運転してる感覚が強い。ーースタンバイ式の4WDだけど、四駆で雪道を走る感覚もよく分かったし、乗ってよかったと思う。でも、この積載能力をフルに使う機会はそうないし、四駆が必要になり得るシチュエーションも、たまに雪道に突っ込むくらいじゃまずないからね」


シルビアで雪道に突っ込んでいたくらいですからそれはそうでしょう。


「そんな中、おもしろレンタカーでER34のスカイラインに乗ってみたら、やっぱり良くてね。直列6気筒は振動も少なくて、噂に違わぬ滑らかさだったけど、反面、滑らか過ぎてちょっと物足りない感もあって。かなり速かったけど、ターボだと上まで回したときの盛り上がり感も薄いから、そうなると、NAのV6エンジンなんかいいんじゃないかと思い始めてさ。……で、日産には名機のV6エンジンを積んだクーペもセダンもラインナップがあるのを思い出すわけですよ」

 

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VQ37VHR型。3,696cc、V型6気筒の高回転型(High Revolution)かつハイレスポンス(High Response)なエンジンです。


「これね、フェアレディZにも載ってるんだよ」

「マジで?……ホントだ、エンジンスペックが同じだ」

「傑作エンジンなんだよね。V6のNAエンジンとしては、現行で最強だって言われてる(実際には2020年時点)。シルビアに載ってたSR20型は、言っちゃえば実用エンジンだったしさ。こういう強い心臓部に憧れがあったのは事実です」

「エンジンの存在感か。……最高出力発生は、7,000rpm? 回してナンボじゃん。3.7Lもあるのに」

「ちなみにレッドゾーンは7,500rpmからです。High Revolutionの名前は伊達じゃないね」


オーテックバージョンも最高出力発生は7,200rpmと高回転型で、その分低速トルクに細さがあったのが不満の種だったようですが、こいつは排気量のデカさがデカさなので、その辺の心配はないというのもポイントが大きいようです。


「ところで、サファリは?」

「いかんせん出物がね……。もちろん今も憧れてるけど、去年いいやつを買い逃しちゃったってのもあって、それ以降なかなか……」

「まあ、こればかりは中古市場次第だもんなあ。タイミングというか縁というか」

「そう。そんな中ね、これが出てきちゃって。見に行ったらやられてしまった」

 

ぐるりと車体を見て回ります。

 

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「デケエ!!!」

「ほとんど5メートルあるからね。ちなみにタイヤは20インチです。他のグレードだと18インチだったりするのに。今からタイヤ交換がこわい」

セグメントの雄、メルセデス・ベンツEクラスと同じサイズ感ですが、ボディーの盛り上がりが強いので私はフーガの方がデカく感じます。

なお、私事ですが私はこの1年後に20インチを履くスポーツセダンに乗り換えることになるのですが、当然この当時はそんなことを知る由もなく、「やっぱりコペンは維持費も低くて助かるなあ」なんて思いながら能天気にフーガを眺めていました。

「しかし、マッシブなエクステリアしてるよね」

「筋肉質だよね。有機的。最近のマツダのデザインみたいだ」

「マイナーチェンジ後で、結構顔付き変わったよね。ヘッドライトの形状と、凝ったグリルのせいか、低く構えて見える。かっこいい」

長くてワイドで、高さもそこそこあるので、ツーリングで前を走ってると、カーブからぬっと出てくる迫力のデカさがありました。

 

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「……字光式ナンバー?」

「いいでしょ。これも決め手になったポイントの1つです」

コメントは控えさせていただきます。輩感。

 

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「日産ロゴじゃないんだ」

「そう。インフィニティマーク。高級路線を前面に出そうとしたのかな。2019年の仕様改良で元に戻るんだけど、日産の迷走具合が見て取れるよね」

全体的にパワフルなエクステリアと、20インチホイール、そして今時ピークパワー発生7,000rpmという、回せと言わんばかりの大排気量NAエンジンを積んだ370GTのフーガは、つくづくスポーツセダンとしての強い性格を窺わせます。

続いて内装。

 

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「こりゃまた一転して、すごいラグジュアリー感だね……」

「よく見るとボタン表記がカタカナだったり、ボタンが多いのは現代的じゃないとか、いろいろ言われはするけど、すごいよね。曲線調で、滑らかだけど、力強さもあって。今でも通用するデザインだと思います」

ウッド調のぶっといセンターコンソールに、なんとアナログ時計まで付いているという。今まで触れてこなかった世界観です。高揚するものがあります。

「あとおもしろいのがね、フォレストエアコン機能ってのがありまして」

日産の誇るフォレストエアコン機能。

森の空気をお手本に、風の揺らぎと、プラズマクラスターイオンによる空気清浄と、アロマディフューザーによって”みどりの香り“,“香木の香り”が交互に供給されるとのことです。

「最後に、シートはオットマン機能付き。これは結構足が楽です。よかったら使ってね」

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※曲線調のインテリア。優雅です

 

 

怒涛のおもてなし機能を一通り堪能した後、いよいよ発進します。

「……新幹線に乗ってるみたいだ」

「静かだよね。なまじ比較対象がシルビアとコペンだってのはあると思うけど、レビューを読んだりしても、遮音性は高い方みたい。ホイールハウスにも遮音材入ってるし。でもね、踏み込むと結構音いいよ」

グオーン。

「うわホントだ! これ、86BRZみたいに音増幅して室内に取り込んでたりするのかな」

「やってるかも。あと、さっきまでECOモードで走ってたけど、ノーマルとスポーツはやっぱりパワー感出るね」

言葉通り、ECOモードでは助手席にいてもかなり鈍重さを感じていたものの、モードを変えると印象が一転します。当然こちらが本来の姿でしょう。排気量なりの余裕が出て来ます。

全体的に、分厚い服を着ているようです。

路面のゴツゴツが全然伝わってきません。乗り心地はかなりいい方だと思います。その上、高回転域に持ち込まなければやたらと静かなので、運転していない立場だと『車に乗っている』感覚が希薄になります。

後で体感したのですが、特に後席の乗り心地は天上物で、思わず発進時に「行ってくれたまえ」「はい」などという茶番を交わしてしまいました。おそろしく安楽で快適です。

それが、一度踏むと、日産がフーガに与えたスポーツセダンとしての本性が顔を出します。

全体として、ハイクラサルーンとスポーツセダンとしての二面性を併せ持つことが、フーガの本質なのだと思います。

「同セグメントのベンツEクラスだと、フーガの競合は、2.0L 4気筒ターボのE250か、3.0L V6ツインターボのE400のどちらかになるんだろうけど。フーガは立ち位置が絶妙なんだよね。E250には性能で勝ってるし、E400とは出力が互角で、でもフーガの方が110kg軽い。トルクじゃ全然負けてるけど、こっちはNAだしFRだから。スペックだけ見ても、走って楽しんでくれっていう日産のメッセージを感じるよね」

「ネガは?」

「直進安定性かな」

セダンとして致命的じゃないですか!

「もうちょっと正確に言うと、ハンドルの戻りがよくないんだよ。ちょうど今カーブだから、ちょっと見ててよ」

Rの緩いカーブの途中で、ハンドルを支持する力を抜いてみせる新山さん。

それでもフーガは、カーブに合わせたラインを走行し続けます。

「ステアリングの電子制御の問題なのかなんなのか、ハンドルを意識して戻さないといけないんだよ。普通、ある程度直進に戻ろうとするじゃない。それがないので、今みたいなカーブはともかくとして、高速道路を巡航してるときも、常に修正舵を当てないと真っ直ぐ走ってくれないんだよね。意識するか、無意識かのギリギリぐらいのところだから、高速走ってるとちょっと疲れはする」

その他、ブレーキを踏むと前輪がブルブルと震える感覚があるといい、後々日産に持ち込んだところ、こちらは本人の予想通りブレーキパッドの偏摩耗だったそうです。パッド交換で対応。

しばらく乗った上での本人の感想として、「操作に対する電子制御の介入が気になる」というものも追加されました。

フーガにはDCA (distance control assist)なる機能が付いていて、これがオンになっていると、車間に応じてオートでブレーキを踏んだり、アクセルペダルに抵抗が発生してそれ以上の加速を抑えようとしたりする、所謂安全機能が付いています。

オフにすることもできるようですが、そうするとせっかくの安全機能が損なわれますし、そもそもがデフォルトでオンになっているものようです。

この経験が、『アクセル、ブレーキ、ステアリングの操作に対してとにかく反応が素直であること』を、新山さんが自車に求める最大のポイントにのし上がるようになったのだと思います。

それでも、日産のハイクラスセダンに乗ったという経験は、個人的には羨ましいものがあります。好きなブランドの、ある意味一番いいやつに乗ったわけですもんね。

 

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私がフーガを通じて知ったのは、『大排気量の強みは、巡航時から何もせずとも加速できる、どの帯域からでも発生する大トルク』だということです。

それってターボじゃんと言われるかもしれませんが、ターボは過給がかかる帯域が限られ、低回転域からは基本的にトルクが出ませんし、最近では1,200rpmから最大トルクを発生する高性能ダウンサイジングターボも増えては来ましたが、やはり過給の為の一呼吸が、多少なりとも発生します。大排気量NAはそれがありません。しかも、アクセル操作に対する反応が極めてリニアです(特殊機能や電子スロットルの設定に依るものは除く)。

私はターボ車に乗っている時間が長かったので、現行車のターボラグはあまり気になりませんし、慣れればそれを見越したアクセルペダルの踏み具合を無意識に調整するようになるのですが、NAを乗り継いできた新山さんのようなタイプだと、やはりアクセル開度に対するパワーの出方が滑らかかどうかは、かなり気になるようです。

結局この後、私はターボ車に、新山さんはひたすらにNA車のみを乗り継いでいくことになるのですが、こう考えると何ともおもしろい話です。やっぱり相性はあるんでしょうか。

個人的には、もっと乗っていてほしかった車です。

私自身が乗り換え候補として考え始めていた要素が「もうちょっと大人っぽい車」ということもあって、その国産極地に位置するフーガは、もう少し体験してみたかったという思いはあります。

それでもまあ3年くらいは乗るんだろうなと思っていた頃。フーガ購入から3ヶ月が経過した、2021年11月の上旬。

奈良県のとある中古RV専門ショップに、とうとう奴が現れました。