フィアット パンダ 4×4
増車。それは車好きの夢。
1人1台持っていれば必要十分以上である自動車を、趣味用途に合わせて2台以上持つという暴挙。自動車税も保険料も駐車場代もほぼ倍になるという、エコロジストとミニマリストが泡を吹いて卒倒しかねない、悪魔の所業です。
このたび、悪魔になった男が身内に1人増えましたのでご紹介します。
◯フィアット パンダ 4×4 (2015年式)


エンジン: 0.9リッター直列2気筒 SOHC 8バルブ ターボ "Twin Air"
サイズ:全長 3,685 × 全幅 1,640× 全高 1,615mm
ホイールベース: 2,300mm
トレッド:前/後 1,410/1,410mm
タイヤサイズ:175/65R15
車重:1,130kg
最高出力:85ps(63kW)/5,500rpm
最大トルク:14.8kg-m(145N・m)/1,900rpm
※電子デフロック付きフルタイム4WD(油圧式多板クラッチ)
「そんなわけで、『5.5L V8では物足らない。これでおれも10気筒乗りだ』。SLK55乗りのぽりんさんです」
「バイパーかな?ーーまあ、2台持ちは、仲間内に結構いますしね。刺激されたのはあるかな」
2台持ち、仲間内にいることはいますが、今回の増車のポイント、なんと『8気筒と2気筒の2台持ち』という点だと思います。

「普通に話したら、片方バイクだって思われますよね」
「実際には、8気筒の方が2人乗りだっていうね。自分でもどっちが趣味車なんだから分かんなくなってます」
2025年10月25日。新山さん結婚祝い(サンバー回で後述します)兼、パンダ納車祝いの、爆弾ハンバーグ爆食会での会話です。

※ファミレス『フライングガーデン』の爆弾ハンバーグ。我々が集まるときは大体ここで食事をする
先のバイク云々の発言は、大型二輪免許を持つ新山さんによるもの。3人で肉をかっくらいながら、窓の外に目をやり、店の駐車場に鎮座するフィアットパンダを眺めます。
「実際には、パンダの方を足車として買ったんですよね?」
「です。SLKの走行距離を温存したくて、通勤用の車を探してたんです。どうせ買うならMTの面白いやつがいいなと思って。トゥインゴとか、それこそミゼット2とか見てたんですけど。……これを機に、『冬に雪道とか突っ込めたら楽しいだろうな』と思い始めまして」

※実際に突っ込んで行った図。冬季閉鎖前の金精峠アタック
「パンダの4駆なら、今までシーズンオフ扱いだった冬季の行動範囲も広がるなと。ーーフィアットには馴染みもあるし、アバルトに乗ってた時のホイールも残してましたから」
「500に乗ってたんですもんね。やっぱり、イタリア車好きなんですか?」
「それもありますけど、単純に少ないんですよ。コンパクトカーでここまで本格的な4WDって。要件を全部満たすのがこいつだった、ってのが近いかもしれません」

※アバルト時代の写真。コンパクトなホットハッチは昔から好きなようです
「増車じゃなくて、SLKの買い替えも検討してましたよね」
たしかアウディのRS6は買う直前までいっていた記憶があります。
「いってました。やりたいことを1台にまとめるか、思い切って増車するか、すっと迷ってたんですよね。そんな中、夏頃かな?新山さんに言われまして」
曰く、
『ーーシルビアとサンバーの2台体制を経験した身からすると、一旦、2台持ちを経験して見るのも手ですよ。そこから、1台にまとめるか、2台体制で行くかを選択した方が、考えは豊かになると思います』
とのこと。新山さんに目をやる私。
「……とりあえず、手頃な車買わせようとしてません?」
「そんなことないよ。経験則を話しただけ」
お前も鬼にならないかと言っているのと同じです。しかも、自分も同時期に車を買っているという。

「ーーまあ、実際言われた自分としても、腑に落ちる点は多くて。1台にまとめるにしては、考えもまとまってなかったし。お試し2台持ちのランニングコストを考えても、ずっと欲しかった100万円前後のコンパクトな車を、勢いで買っちゃった方が満足度も高いかなと思いましてね。RS6は、まだ死ぬほど高いですから」
アウディRS6。V8ツインターボを積み、泣く子も黙る600馬力を発生し、全幅は1,960mmというバカ速クソデカ4WDワゴン。
SLK55とはまた違った方向の、欧州プレミアムハイパワーカーです。これを手に入れれば、いつでも、どこへでもいける、そう息巻いていたものの……。
「デカ過ぎるなと。実際遠方に出かけた時も、たまーに細い道入ったりするんですけど、2m近い全幅は、ちょっと持て余すなと思いまして。ーー何なら、今回そこそこ実用性も求めたい中で、ここまで高い車にする意味がどこまであるのかなと……」
車には浪漫を求めると明言していたぽりんから、わりと意外な発言が出てきました。
『どうせ買うなら』という話は、私ともよくしていました。自分の気持ちを高める為にプレミアム性を求めることは、いわゆる『ドヤる』感覚に近くはあるものの、方向性さえ間違えなければ、悪くない感性だと思っています。
「そうなんですよ。自分もずっとそういう気持ちがあったんですけど、ーー浪漫って別に、車体価格と比例しないですからね。思えばずっと、『限界予算に近い車』で探していたなと気づいて。一旦そこから離れてみてもいいんじゃないかと」
そりゃ予算が無限にあるなら高い車欲しいですけど、とコーヒーを啜りながらぼやくぽりん氏。
この感覚は正しかったようで、数ヶ月後、パンダとサンバーをそれぞれシバキ倒したぽりんと新山さんに、「実際どうでした?」と意見を伺うと、

「最高」「これでいい。いや、これがいい」「車は小さいエンジンをマニュアルでぶん回してナンボ」「排気量1.0Lも要らんかったんや!」「小排気量MT&4WD、この条件にあらずんば車にあらず」
熱い手のひら返しを見せてくれました。なお、この2人、それぞれ元々V8乗りです。

※数ヶ月前の集まりで見せていた『V8を讃えよ』のポーズ。このときは、こんなことになるとは夢にも思っていなかったでしょう。
そんなわけで、仲間内における『車との付き合い方』に、一種のトレンドを巻き起こしたぽりんと新山さんです。
おかげで私は今、GP型インプレッサのMTが欲しくて堪りません。そこそこの最低地上高のマニュアル車で雪山に突っ込みたい。
◇
「今回最大の突っ込みどころは、群馬での通勤の足車としてパンダ買ったのに、転職大成功して、都心の電車通勤になっちゃったことですよね」
「こんなつもりじゃなかったんですけど。人生、話が重なる時は重なるもんですね」
最近はSLKの出番が減り、完全パンダ乗り回しマンになってしまっている模様。大分お気に召しているようです。
「パンダ、どこが一番好きですか?」
「エンジンです。変な笑いが出ます」
SLKのときと同じ台詞です。

2気筒ツインエアエンジン。エンジンオブザイヤーでも複数賞を取っている、名機中の名機。
「2気筒って、バイクだとV型とかもありますけど、これは?」
「並んでます。直列です」

「面白いですよこれ。アイドリングはトットットットって感じで、ゆっくりアクセル踏むと、バタバタバタバタって愉快な音が出ます。しかも、低い回転域だと、エンストしかけてるのかと思うくらい振動が来る。こないだ低回転から加速した時に、バックミラーまでガクガク揺れちゃってまして。流石に笑っちゃいました」
乗ってて笑ってしまう、とは良い言葉だなと思います。……集合場所に先に着いて、新山さんと2人でぽりんを待っていたりすると、パンダが近づくにつれて、『バタバタバタバタ』という愉快な排気音が聞こえてくるので、こっちまで笑ってしまっています。
「そのわりに、上までぶん回すと、思いのほかスムーズなんですよね。ーーあと、低速だとバタバタいうわりに、高速巡行してるとわりと静か……ってほどじゃないですけど、疲れる音があんまり聴こえてこないです」

「このエンジン、バランスシャフト(エンジンの1次振動を軽減する、クランクシャフトと逆位相で回転するシャフト)にカウンターウェイトみたいな重り付いてるんですけど。多分そいつが効く回転域を、ちょうど高速巡行の回転くらい振ってるんじゃないかな」
「下の帯域のバタバタ感は、ツインエアの味として残してて、長距離走る時はなるべく疲れないようにしてくれてる、って感じですかね」
「みたいだね。技術解説読むと、バランスシャフトで1次振動の軽減は狙ったけど、2次振動は問題にしなかったって書いてる」
「4気筒でバランスシャフトがあると、2次まで消す為に倍速で回転させるはずなんだけど、こいつは等速らしいですね。その辺の考え方の違いなんだろうな」
以降、ぽりんと新山さんが、シリンダーの角度がどうとか、偶力振動の他に慣性力振動がどうとか話し始めてしまいました。さっぱり分からない私はへーほーと頷きながら、脳内に初耳のキーワードをメモることに終始します。
5分ほど経過。インテリアに目を向けます。

「イタリア車といえば語りどころは内装と聞きますが、……何ですかこのドリンクホルダー」
「『ホールドとは?』という感じですね。深さを全く考えてない。エスプレッソカップくらいしか置けないです」

※この喫水。手前の3つ目のスペースにおいては、サイドブレーキを下ろすとレバーに干渉します
「ドリンクホルダー問題は、弱点っちゃ弱点でして。ちょうどよく保持してくれるスペースがないんですよ……。実はドア側の足元にもドリンクスペースがあって、そこが一番まともに保持してくれるんですけど。ここにも問題があって。降りるとき、十中八九蹴飛ばします。果たして今まで、何mlのコーヒーを駐車場にぶちまけたか」

「続いてこちら。この車の給油口にロックという概念は存在しません。ガソリン盗り放題」
彼等は世紀末みたいな極限状況じゃなく平和な日々を前提に設計してるんですよ、とのぽりん談。良いですね。楽しくなる。
「あとこれ。何故?というところにパンダのロゴがあるんですよね。たとえばここ、トランクを開けたリア上部」

「次はこちら。内装のシボ部分。ここに関しては一種の狂気だと思う」

恐怖。ほとんどシャイニングのアレです。
続いて後席の窓。

「ハンドパワーです。災害時に便利」
「奇遇ですね、サンバーもこれです」
「おお。最大のフェイルセーフは『部品を付けない』ですからね。付いてないものは壊れない。ーーちなみにこの窓、ドアデザインの都合上ここまでしか下げられません」


最後に後部座席。

「……5人乗りですよね」
「5人乗ってみろ、的なね。あと、なんでここにドリンクホルダーがあるんだって思う。運転席側に増やして欲しいんですけど」
◇
という感じで、インテリアに関しては、我々の感性からすると「何故その判断を下したのか」と首を傾げる部分は多いですが、総じて明るく陽気な、乗っていて笑顔が溢れてくるような車です。
「1/1スケールのおもちゃを買った感覚ですよね。車の特性もそうですし、何より、いろんな意味で気軽に弄り回せるんですよ、この車。とりあえず電装系、ライト関係は自力でアレコレ付け替えてみてます」


雪道ツーリングを見越して、ヘッドライトとフォグランプは早々に交換したようです。
準備も徹底したおかげが、念願の冬季北海道突撃ツーリングは、無事に楽しく走り終えた模様。



※北海道を駆け回るパンダ君。
「サンバーもそうですけど、ホント2人とも、カーライフが一層楽しそうになりましたよね」
「いや大満足です。使い切れるパワー。弄りやすさ。肩肘張らない明るい雰囲気。何より、行動範囲を広げてくれるこのパッケージ。SLKとはまた違って、『車の楽しさってこうだよな』って感覚を、また教えてくれた車ですね。長く楽しめそうです」
解散して、陽気な排気音を響かせながら、元気に駆け去っていくパンダを見て、私は少しコペンを思い出してしまうのでした。

次は新山さんのサンバー回ですが、また誰かが先走って、突然何かを買ってしまわないかが不安です。続きます。