ー ORDINARY ー

※ 登場人物はすべてフィクションです。車と楽器とフィクションに塗れた会社員の日常を、のんべんだらりと書き綴っています。

BMW ALPINA B3 Biturbo Limousine (F30)

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コペンローブが慎ましやかやに鎮座していた駐車場には今、でけえウルフドッグみたいな車が停まっています。

犬の名は、BMW ALPINA B3 Biturbo Limousine。

最高出力410馬力、最大トルク61kg-m。「おまえは一昔前の911ターボか?」と言わんばかりの動力性能を持つ、羊の皮を被り切れていない狼犬。

アルプス山脈の長閑な麓町、バイエルン州ブッフローエで製造された、天下のBMW 3シリーズを元にしたコンプリートカーです。


なぜこんな凶悪な車が我が物顔でここに停まっているかというと、コペンからの乗り替えで私が買ったからです。


BMW ALPINA B3 Biturbo Limousine F30 (2015年式8AT)

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エンジン: N55B30M0 Turned by Alpina 直列6気筒DOHCツインターボ(同型335iのチューンド)


ボディサイズ:全長 4,645 × 全幅 1,810 ×  全高 1,445 mm

ホイールベース: 2,810mm

トレッド:前/後 1,539/1,556mm

タイヤサイズ:245/30R20 / 265/30R20

車重:1,640kg

最高出力:410ps(301kW)/5,500-6,250rpm

最大トルク:61.2kg-m(600N・m)/3,000-4,000rpm


2022年8月6日納車。走行距離78,047km。

2021年8月、走行距離約77,000km時に下記の交換実績あり。


エンジンオイル/オイルフィルター/ブレーキフルード/

ミッションオイル/オイルパンセット/フィラーボルト/コネクタースリーブ/

前後ブレーキパッド(ブレンボセラミックタイプ)/前後パッドセンサー/

バッテリーAGM95A/エアフィルター

購入時タイヤ交換済。



「外装が大人っぽく、パワーのあるセダンかクーペで、出来れば屋根が開く車」


というのがコペンの後継車を探していたときの条件なのですが、 B3がこの条件に当てはまっているかは若干怪しいところがありまして、問題は外装です。


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ご覧の通り。ボディーカラーのアルピンホワイトⅢがマズかったのかもしれません。「白なら上品かな」と思って買ったのですが、友人の言葉を借りると「白スーツを着た桐生和馬」です。シルバーのラインが威圧感を倍増させています。


納車されて1週間。まだ停まっている姿を見るたびに、「……うわあ」となっています。えらい車を買ってしまった、と。


しかしながら、アルピナB3の本質は、”Understatement”を本懐としているメーカーのメインストリーム車とは思えない外装の威圧感でなく、コンフォートで走れば”Understatement”そのままの乗り心地と乗りやすさを誇り、スポーツモードのマニュアル変速で操れば豹変するバカ出力と足回りの安定感が、おそろしいことに両立していることです。


複雑な車です。見た目は厳つくて、でも普通に乗れば穏やかで、踏み込めば牙を剥く。イメージとしては徹底的に飼い慣らされた狼犬そのままです。


代償はランニングコストで、手始めに指定タイヤの交換が25万円掛かりました。ミシュランパイロットスポーツ4S、245/30R20と265/30R20。フラートーンの中古が買える値段です。購入直後の洗礼としては中々のものです。

 

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※乗用車にあるまじき扁平率


ついでにいうと、トルク60kg-mを超える車です。アホな踏み方をしているとあっという間にタイヤがお陀仏になりかねません。


ありがたいことに購入直前に前のオーナーが換えておいてほしい消耗品を一通り潰しておいてくれたおかげで、当面は不意の故障さえなければオイル交換くらいでいけるのではないかと思っています。オートマチックフルードとオイルパン関係を一気にやってくれていたのは助かった……。


過去のエントリーで、「この辺の車を私が買ったら『ああ、こいつは車と心中するつもりなんだな』と思ってください」と書きましたが、その中には憧れのE36型アルピナB3も含まれていました。結局買ったのはこの世で最もかっこいいと私が盲信しているF30型のアルピナです。記載したものとは異なりますが、前言の通り、心中するつもりで乗っていきたいと思います。

 

購入に至る経緯や、今後の維持費との戦いや、ツーリングの思い出や、ついでにいうと同じ日に同じ店でアルピナが納車された新山さんのB3 3.3のことについて、今後また書き記していければと思っております。


よろしくB3。これから末長く、元気に走って行ってください。

 

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新山さん、キング・オブ・オフローダーに乗る(日産サファリ)。

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日産サファリ。


昨今のSUVブームとは一線を介する、道なき道を突っ走らんばかりの走破性と耐久性を誇り、日本国内での販売がなくなった今日においても、世界の紛争地帯や砂漠の悪路を縦横無尽に走り回る、日産のフラッグシップクロスカントリー車。


2016年夏、北海道ツーリングからの無事帰還を祝う酒席で、新山さんからオフロードロマン溢れるサファリへの憧れを吐露されてから、気がつけば5年が経過した2021年11月の上旬。


フーガ購入後も、イマイチフィーリングの合わない電子スロットルとステアフィールに悩まされ、一向に治らない仕事の忙しさに目を回しながら、ほとんど習性と化した中古車サイトの巡回を続けていた新山さんは、奈良県の某中古RV車ショップに本車が登録されたのをついに発見。「時は来た。それだけだ」との謎ツイートを残し、発見から2日後にはフーガを走らせて奈良まで現車確認ツーリングを敢行。3週間後には、フーガを売却した資金を手に、新幹線でサファリを引き取りに向かうのでした。


◯日産 サファリ 4.5 グランロードリミテッド 4WD (1998年式4AT)

 

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エンジン:TB45E型 直列6気筒 OHV 4,478cc

ボディサイズ:全長 4,910 × 全幅 1,930 × 全高 1,865 mm

ホイールベース: 2,970mm

トレッド:前/後 1,605/1,625mm

タイヤサイズ:265/70/R16

車重:2,250kg

最高出力:200ps/4,400rpm

最大トルク:35.5kg-m/3,600rpm

変速比:(1~4)2.784/1.544/1.000/0.694

最終減速比:3.900

最小回転半径:6.1m

最低地上高:215mm


「ーーそのまま奈良から500km走って帰ってきたわけだけど、いかがですか。念願叶ってのサファリは」

「いい。とてもいい」


納車されてしばらく。『佐倉市に馬鹿でかい海老フライを食いに行く』ドライブの道中で、新山さんから所感を伺います。


「直進性がね、期待してなかったんだけど、思いの外いいんだよ。素直。ステアリングフィールに変なアシストがない。横Gをかけた分だけ、ステアにタイヤが撓む抵抗が伝わる。というか、これが普通だと思うんだけど」


フーガはどうもその辺の感触が合わなかったようです。


「フーガはね、とにかくステアフィールがどんな状況でも均等になるように、謎のアシストが入ってる感覚だった。普通さ、ステアリング切ると、初期反応としてタイヤが撓む感覚ない? あるでしょ? あるんだよ。で、その抵抗を手が感じ取ってから、ステアの切り角を決める。無意識にGとタイヤの撓みをステアから感じ取って、車の挙動に反映される前に、腕が切れ角を調整してるはずなんだよね。フーガはね、その初期反応がないの。制御で修正を入れてるのかなんなのかはわからないけど。だから、車の挙動に現れてから修正舵を当てざるを得ないので、常に修正舵を当て続けてる感覚になる。だから、直進安定性が悪く感じちゃうんだよ」


なるほど、と頷きますが、このときの私の感想は、「こいついつもこんなこと考えながら運転してたのか」です。引いてます。


「脚もね、揺れるんだけど、謎に不安がない。ピッチングしない。縦というか、前後にグニャングニャンしないから、高速でそこそこの速度で巡航しても、全然不安がない。こんなに車高が高いのに。超楽」

「でも、ロードインフォメーションはちゃんと伝わってくるよね。それなのに、全体としてはやたら静かに感じる」

「ね! 静かでしょ!! これが日産クロカンフラッグシップの実力ですよ!!! 抑え込みゃいいってもんじゃないんだよ、ナチュラルなフィードを残して不快なフィールを取り除く、これが車の極致として日産が辿」


途中から覚えちゃいませんが、興奮は伝わってきます。


ステアリングフィールについては、フーガはAWS (4輪操舵)も付いていたので、「その辺りが謎のフィールを生んでいたのかもしれない」と新山さんは言いますが、そんなスポーツ走行に影響を与えないような初期切れ角にまでフィードを与えているとは、いまいち信じられません。AWSの付いていないType-S以外のモデルだと、どうだったのかが気になるところです。


「アクセルは?」

「素直。踏んだら踏んだ分だけ燃料を吹いてくれる感じ。フーガは、……フーガと比較してばっかで申し訳ないけど、踏み始めで謎に反応が鈍くて、一定以上踏むとやっと反応する感じがあったんだよね。NAなのに」

「ターボみたいだね。やたらとECOモードで走ってたけど、もしかして」

「そう。それが理由。ECOモードなら、カバ踏みでも制御掛かって穏やかに反応するでしょ。どうせリニアさがないなら、こっちのが楽だと思って、ずっとECOモードで走ってた」


北米をメインターゲットとしていたフーガ。スポーツセダンといっても、ストップアンドゴーの多い日本の道のように、じわっと踏む局面が多いと、苦手な面が目立つのかもしれません。

 

それはともかくサファリです。

 

「サファリはね、エンジンいいよ。4.5Lとはいえ200馬力しか出てないし、車重もあるからフル加速しても正直遅いんだけど、気合いの入った音するし、気持ちがいい。十分だよ。巡航はそこそこの速度で出来るし、加速力を求めて買ったわけじゃないから。フーガもエンジンはめちゃくちゃよかったんだけど」

「なるほどねー。……現行車のフーガから、20年以上前のモデル落ちの車に乗り換えたわけだけど、その辺は? 今までの話聞くと、逆にその古さ、電子制御の少なさが好みなんだとは思うけど」

「え? このサファリ現行車だよ」


しれっと答える新山さん。


「嘘こけ! 1998年式の車が現行モデルなわけあるか!」

「ホントだよ。日本じゃ販売終わっていて、海外でもパトロールやアルマーダ(海外でのサファリのモデル名)は、Y61からY62にモデルチェンジはしてるけど、中東じゃまだY61がパトロール・サファリの名前で売られてる。つまり、まだ日産車体の湘南工場で作ってる」


どうもY62からラグジュアリー重視の車に舵を切られたようで、その分、ストイックな走破性が求められる国ではY61が継続的に売られているようです。やってることがトヨタ・ランドクルーザー70とほぼ同じです。


「たしかにランクルとよく比べられる車だけど、比較すると、サファリは変わらず無骨で一本気で、走破性は一級品だったけど、それ以外の細かい部分でのアップグレードが、時代に追いつかなかった感があるね。内装の高級感だったり、ATが4速のままだったり、パートタイム4WDのままだったり。紛争地帯みたいに『とにかく悪路で使える車を』って状況ならともかく、日本じゃ『それならランクルの方が』って言う声に負けちゃったんだと思う。……いい車だと思うんだけどね、サファリ。だから未だに中東で売られてるわけだし」

「実際おれも話聞くまで知らなかったわけだしね、サファリ。ーーそういえばこないだ、タイヤショップのおにーちゃんに『すみませんこの車、車種は……?』って訊かれてたよね」

ランクルだったら分かってもらえたのかなあ……」


ぼやきながら千葉の県道を突っ走る新山さん。


あーだこーだ言いながらも、憧れのサファリをひたすらに満喫していたようで、新山さんの過去ツイートを見返す限り、雪山も行ったし普段の足にも使ったし、全国あちこち走り回っていたようです。

 

4駆と車中泊はサンバーで、6気筒エンジンの滑らかさはレンタカーのR34スカイラインで、杢目調の豪奢な内装はフーガで経験している為、仕様の新鮮さに大きいものはなかったかもしれませんが、憧れ叶って乗れた車ということもあり、『キング・オブ・オフローダー』と謳われた日産のフラッグシップオフロード車を存分に味わっていたのを、私は傍目で眺めていました。


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※キング・オブ・オフローダーを存分に味わい尽くす新山氏


そんな新山さんが最後まで背筋を震わせていた問題が、1つ。

 

燃費です。


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「ベストは7.7km/Lでした。最低3.3km/L」

「……今日おれんちに迎えにきてもらうのまでに、2Lのガソリンが消えてたのか」

「そうなるね。ちなみに燃料タンクは95L。街乗り燃費だと、房総半島を一周したら帰って来れない計算になる」


一度給油に立ち会った際、「やった!6.5km/L超えた!」と喜んでいるのを見て、結構な狂気を感じました。レギュラー仕様なのは焼け石に水と言ったところです。

 


唯一の弱点である燃費の問題から、買ってしばらくは「遠出の腰が重くなるんじゃないか」なんて懸念を漏らしていましたが、蓋を開けてみればそんなことは全くなく、2021年11月28日に納車されたこのサファリは、わずか9ヶ月で約15,000kmを走破していました。


購入時点での走行距離は203,000km。紆余曲折を経て、2022年8月6日に手放した時点での走行距離は218,000km。週に416km走っている計算になります。40万円近いガソリン代を、たった9ヶ月で飲み尽くしたサファリ。

 

以降、燃費以外のサファリの特徴です。

 

チャームポイントその1。エンジン搭載位置の低さ。


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「レベルゲージの位置、やたら低くない?」

「そう! よく気づいた! サファリは直列6気筒のOHV積んでんだけど、こいつはね、エンジン上部にカムシャフトがない分、搭載位置が低くなるんだよ。コルベットとかもこの形式。この低重心が走りの安定感を生んでるのかもわからんね」

サファリのボンネット高で低重心も何もないのではないかと思いますが……。

 

チャームポイントその2。カセットテープが聴ける。

 

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高中正義は分かるけど、なぜ日本の民謡が……?」

「こないだハードオフで買ってみた。いいよこれ。淡々と走ってるときに落ち着く。掛けようか?」

夕方のC2高架下に響き渡る民謡。シュールです。

 

チャームポイントその3。サンルーフとウィンドウのデカさによる解放感。

 

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コペンで横に停められたときの写真。デカイ。

 

「すげえ。ウィンドウの位置がこんなに低いんだ。肘が置ける。おまけにサンルーフの先端が頭より先にあるから、全開にするとハチャメチャに解放感がある。生粋の深いデカ目のオープンカーよりオープンカーしてる気がする」

「その例えはよくわかんないけど……まあ、かなり気持ちよくはあるよね。夕方とかは開けて走りたくなる」

私が今まで乗った車の中でコペンを除くと一番の解放感です。これは羨ましい……。

 

チャームポイントその4。バッテリーカバー。

 

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名著『新型サファリのすべて / 別冊モーターファン』を東雲のスーパーオートバックスで発見した新山さん。熟読していたところ、サファリにはバッテリーの冷却を補助する『バッテリーカバー』なるものが純正部品として付いているはずが、この個体は交換作業時の不慮なのかなんなのか、カバーが付属していなかったとのことです。

さっそく部品を発注し、独力で取り付ける新山氏。

 

「これでまた1つサファリが完璧に近づいた。スーパーサファリ(※)になる日も近い」

「…………」

 

※ドバイの大富豪がHKSに発注した1,000馬力仕様のY61型サファリ

 

 

他にこういうオフ車に乗っている人間がいないこともあって、助手席に乗っているだけでも相当におもしろい車でした。

 

視点の高いハイエースやキャラバンと言ったFRのワンボックスを運転していた時の楽しさに近いです。パワーも大したことはないのに、悠々とのんびりと走ることができます。一度はこいつでキャンプに行ってみたかったものです。

 

「強いていえば重心の低いスポーティーなクーペやセダン、オープンカーには心惹かれる」と言いながら、燃費以外にとりたて不満点は見当たらなかったようで、燃費問題に関してもある意味計測を楽しんでいた部分が見受けられました。

 

フィーリングも合うみたいだし、しばらくはこのままいくんだろうなあと思っていた、2022年の夏。

 

私の買い替え検討が盛り上がりの兆しを見せていた頃から、事態は動き始めました。

新山さん、黒塗りの高級車を買う(日産 フーガ 370GT Type-S)。

シルビアとの涙の別れを経た新山さんが、新たな愛車として選んだ車がこちらです。

 

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◯日産 フーガ 370GT Type-S Y51後期型(2015年式7AT)

エンジン:VQ37VHR型 V型6気筒 DOHC 3,696cc(NA)

ボディサイズ:全長 4,980 × 全幅 1,845 × 全高 1,500 mm

ホイールベース: 2,900mm

トレッド:前/後 1,575/1,570mm

タイヤサイズ:245/40R20

車重:1,770kg

最高出力:333ps(245kW)/7,000rpm

最大トルク:37kg-m(363N・m)/5,200rpm

変速比:(1~7/後退)4.783/3.102/1.984/1.371/1.000/0.870/0.775/3.858

最終減速比:3.357

最小回転半径:5.6m

 

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「サファリじゃないのかよ!」

「違います。日産が誇る大排気量V型6気筒NA、VQ37VHR型エンジンを積んだFRセダン、フーガです」


まさかのEセグメントです。たしかに以前ツイッターで、

 

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などと呟いているのを見はしましたが……。


「意外だけど、スポーツセダンが気になる、てのはずっと話してたよね。走る、止まる、曲がるの性能を考えると、やっぱりセダンかクーペになるって」

「そう。サンバーのおかげで、良くも悪くも四駆と車中泊に幻想を求めなくなったところもあってさ」


ハチャメチャに四駆軽バンを満喫していたように見えるのですが。


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「いや、実際楽しかったよサンバー。ホントに楽しかった。遅いし、サスフニャフニャだし、あちこちからガタビシいうけど、運転していて謎の楽しさがあるんだよね。情報のフィードバックが運転手にしっかり来るからかな…。車を運転してる感覚が強い。ーースタンバイ式の4WDだけど、四駆で雪道を走る感覚もよく分かったし、乗ってよかったと思う。でも、この積載能力をフルに使う機会はそうないし、四駆が必要になり得るシチュエーションも、たまに雪道に突っ込むくらいじゃまずないからね」


シルビアで雪道に突っ込んでいたくらいですからそれはそうでしょう。


「そんな中、おもしろレンタカーでER34のスカイラインに乗ってみたら、やっぱり良くてね。直列6気筒は振動も少なくて、噂に違わぬ滑らかさだったけど、反面、滑らか過ぎてちょっと物足りない感もあって。かなり速かったけど、ターボだと上まで回したときの盛り上がり感も薄いから、そうなると、NAのV6エンジンなんかいいんじゃないかと思い始めてさ。……で、日産には名機のV6エンジンを積んだクーペもセダンもラインナップがあるのを思い出すわけですよ」

 

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VQ37VHR型。3,696cc、V型6気筒の高回転型(High Revolution)かつハイレスポンス(High Response)なエンジンです。


「これね、フェアレディZにも載ってるんだよ」

「マジで?……ホントだ、エンジンスペックが同じだ」

「傑作エンジンなんだよね。V6のNAエンジンとしては、現行で最強だって言われてる(実際には2020年時点)。シルビアに載ってたSR20型は、言っちゃえば実用エンジンだったしさ。こういう強い心臓部に憧れがあったのは事実です」

「エンジンの存在感か。……最高出力発生は、7,000rpm? 回してナンボじゃん。3.7Lもあるのに」

「ちなみにレッドゾーンは7,500rpmからです。High Revolutionの名前は伊達じゃないね」


オーテックバージョンも最高出力発生は7,200rpmと高回転型で、その分低速トルクに細さがあったのが不満の種だったようですが、こいつは排気量のデカさがデカさなので、その辺の心配はないというのもポイントが大きいようです。


「ところで、サファリは?」

「いかんせん出物がね……。もちろん今も憧れてるけど、去年いいやつを買い逃しちゃったってのもあって、それ以降なかなか……」

「まあ、こればかりは中古市場次第だもんなあ。タイミングというか縁というか」

「そう。そんな中ね、これが出てきちゃって。見に行ったらやられてしまった」

 

ぐるりと車体を見て回ります。

 

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「デケエ!!!」

「ほとんど5メートルあるからね。ちなみにタイヤは20インチです。他のグレードだと18インチだったりするのに。今からタイヤ交換がこわい」

セグメントの雄、メルセデス・ベンツEクラスと同じサイズ感ですが、ボディーの盛り上がりが強いので私はフーガの方がデカく感じます。

なお、私事ですが私はこの1年後に20インチを履くスポーツセダンに乗り換えることになるのですが、当然この当時はそんなことを知る由もなく、「やっぱりコペンは維持費も低くて助かるなあ」なんて思いながら能天気にフーガを眺めていました。

「しかし、マッシブなエクステリアしてるよね」

「筋肉質だよね。有機的。最近のマツダのデザインみたいだ」

「マイナーチェンジ後で、結構顔付き変わったよね。ヘッドライトの形状と、凝ったグリルのせいか、低く構えて見える。かっこいい」

長くてワイドで、高さもそこそこあるので、ツーリングで前を走ってると、カーブからぬっと出てくる迫力のデカさがありました。

 

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「……字光式ナンバー?」

「いいでしょ。これも決め手になったポイントの1つです」

コメントは控えさせていただきます。輩感。

 

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「日産ロゴじゃないんだ」

「そう。インフィニティマーク。高級路線を前面に出そうとしたのかな。2019年の仕様改良で元に戻るんだけど、日産の迷走具合が見て取れるよね」

全体的にパワフルなエクステリアと、20インチホイール、そして今時ピークパワー発生7,000rpmという、回せと言わんばかりの大排気量NAエンジンを積んだ370GTのフーガは、つくづくスポーツセダンとしての強い性格を窺わせます。

続いて内装。

 

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「こりゃまた一転して、すごいラグジュアリー感だね……」

「よく見るとボタン表記がカタカナだったり、ボタンが多いのは現代的じゃないとか、いろいろ言われはするけど、すごいよね。曲線調で、滑らかだけど、力強さもあって。今でも通用するデザインだと思います」

ウッド調のぶっといセンターコンソールに、なんとアナログ時計まで付いているという。今まで触れてこなかった世界観です。高揚するものがあります。

「あとおもしろいのがね、フォレストエアコン機能ってのがありまして」

日産の誇るフォレストエアコン機能。

森の空気をお手本に、風の揺らぎと、プラズマクラスターイオンによる空気清浄と、アロマディフューザーによって”みどりの香り“,“香木の香り”が交互に供給されるとのことです。

「最後に、シートはオットマン機能付き。これは結構足が楽です。よかったら使ってね」

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※曲線調のインテリア。優雅です

 

 

怒涛のおもてなし機能を一通り堪能した後、いよいよ発進します。

「……新幹線に乗ってるみたいだ」

「静かだよね。なまじ比較対象がシルビアとコペンだってのはあると思うけど、レビューを読んだりしても、遮音性は高い方みたい。ホイールハウスにも遮音材入ってるし。でもね、踏み込むと結構音いいよ」

グオーン。

「うわホントだ! これ、86BRZみたいに音増幅して室内に取り込んでたりするのかな」

「やってるかも。あと、さっきまでECOモードで走ってたけど、ノーマルとスポーツはやっぱりパワー感出るね」

言葉通り、ECOモードでは助手席にいてもかなり鈍重さを感じていたものの、モードを変えると印象が一転します。当然こちらが本来の姿でしょう。排気量なりの余裕が出て来ます。

全体的に、分厚い服を着ているようです。

路面のゴツゴツが全然伝わってきません。乗り心地はかなりいい方だと思います。その上、高回転域に持ち込まなければやたらと静かなので、運転していない立場だと『車に乗っている』感覚が希薄になります。

後で体感したのですが、特に後席の乗り心地は天上物で、思わず発進時に「行ってくれたまえ」「はい」などという茶番を交わしてしまいました。おそろしく安楽で快適です。

それが、一度踏むと、日産がフーガに与えたスポーツセダンとしての本性が顔を出します。

全体として、ハイクラサルーンとスポーツセダンとしての二面性を併せ持つことが、フーガの本質なのだと思います。

「同セグメントのベンツEクラスだと、フーガの競合は、2.0L 4気筒ターボのE250か、3.0L V6ツインターボのE400のどちらかになるんだろうけど。フーガは立ち位置が絶妙なんだよね。E250には性能で勝ってるし、E400とは出力が互角で、でもフーガの方が110kg軽い。トルクじゃ全然負けてるけど、こっちはNAだしFRだから。スペックだけ見ても、走って楽しんでくれっていう日産のメッセージを感じるよね」

「ネガは?」

「直進安定性かな」

セダンとして致命的じゃないですか!

「もうちょっと正確に言うと、ハンドルの戻りがよくないんだよ。ちょうど今カーブだから、ちょっと見ててよ」

Rの緩いカーブの途中で、ハンドルを支持する力を抜いてみせる新山さん。

それでもフーガは、カーブに合わせたラインを走行し続けます。

「ステアリングの電子制御の問題なのかなんなのか、ハンドルを意識して戻さないといけないんだよ。普通、ある程度直進に戻ろうとするじゃない。それがないので、今みたいなカーブはともかくとして、高速道路を巡航してるときも、常に修正舵を当てないと真っ直ぐ走ってくれないんだよね。意識するか、無意識かのギリギリぐらいのところだから、高速走ってるとちょっと疲れはする」

その他、ブレーキを踏むと前輪がブルブルと震える感覚があるといい、後々日産に持ち込んだところ、こちらは本人の予想通りブレーキパッドの偏摩耗だったそうです。パッド交換で対応。

しばらく乗った上での本人の感想として、「操作に対する電子制御の介入が気になる」というものも追加されました。

フーガにはDCA (distance control assist)なる機能が付いていて、これがオンになっていると、車間に応じてオートでブレーキを踏んだり、アクセルペダルに抵抗が発生してそれ以上の加速を抑えようとしたりする、所謂安全機能が付いています。

オフにすることもできるようですが、そうするとせっかくの安全機能が損なわれますし、そもそもがデフォルトでオンになっているものようです。

この経験が、『アクセル、ブレーキ、ステアリングの操作に対してとにかく反応が素直であること』を、新山さんが自車に求める最大のポイントにのし上がるようになったのだと思います。

それでも、日産のハイクラスセダンに乗ったという経験は、個人的には羨ましいものがあります。好きなブランドの、ある意味一番いいやつに乗ったわけですもんね。

 

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私がフーガを通じて知ったのは、『大排気量の強みは、巡航時から何もせずとも加速できる、どの帯域からでも発生する大トルク』だということです。

それってターボじゃんと言われるかもしれませんが、ターボは過給がかかる帯域が限られ、低回転域からは基本的にトルクが出ませんし、最近では1,200rpmから最大トルクを発生する高性能ダウンサイジングターボも増えては来ましたが、やはり過給の為の一呼吸が、多少なりとも発生します。大排気量NAはそれがありません。しかも、アクセル操作に対する反応が極めてリニアです(特殊機能や電子スロットルの設定に依るものは除く)。

私はターボ車に乗っている時間が長かったので、現行車のターボラグはあまり気になりませんし、慣れればそれを見越したアクセルペダルの踏み具合を無意識に調整するようになるのですが、NAを乗り継いできた新山さんのようなタイプだと、やはりアクセル開度に対するパワーの出方が滑らかかどうかは、かなり気になるようです。

結局この後、私はターボ車に、新山さんはひたすらにNA車のみを乗り継いでいくことになるのですが、こう考えると何ともおもしろい話です。やっぱり相性はあるんでしょうか。

個人的には、もっと乗っていてほしかった車です。

私自身が乗り換え候補として考え始めていた要素が「もうちょっと大人っぽい車」ということもあって、その国産極地に位置するフーガは、もう少し体験してみたかったという思いはあります。

それでもまあ3年くらいは乗るんだろうなと思っていた頃。フーガ購入から3ヶ月が経過した、2021年11月の上旬。

奈良県のとある中古RV専門ショップに、とうとう奴が現れました。

 

新山さん、シルビアを降りる。

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私のコペン乗り換えに1年先んじて、新山さんが約10年間乗り続けたシルビアを降りました。2021年8月のことです。

 

思えばこれが、その後に続く紆余曲折のすべての始まりであって、私がコペンを乗り換えるに至った経緯の1つでもあります。ある意味ではコペンより乗っていた車です。別れの際には流石に寂しさが強かったことをよく覚えています。


幸いにも、乗り換え前日のドライブに同乗させてもらうことが出来たので、そのときの会話を軸に、新山さんのシルビアを振り返っていきたいと思います。


……その後の紆余曲折と、最終的に新山さんが辿り着いた某MTのスポーツセダンのことを考えながら当時の会話を読み返すと、中々におもしろいものがあります。それでは。


 

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迎えが来た知らせはいつも「ズモモモモ」というシルビアの野太いエグゾースト音で、本人からの「着きました」というメールが届くよりも先に到着に気づくことになります。


交換されたマフラーが元に戻されているので、いつもより音が控えめなのが寂しいところです。音が家の前まで来るとすぐに「オォン」という一鳴きでエンジン音が治るのは、近所迷惑を鑑みた新山さんがすぐさまエンジンを停めるからです。


「おはようございます」

「おはようございます。……この音も今日で最後か。よろしくお願いします」


発進。本日はとりたて目的もないので、県内の道の駅と、記念撮影の為にだだっ広い駐車場のある公園に向かいます。


「どうですか、今日という日を迎えて」

「まあ寂しいよね。ラストドライブは明日の納車受け取りと下取りのときだから、おれはまだ後1日あるけど。でも、2012年から9年ちょっとか……。味わい尽くしたと思うよ。シルビアでツーリング、普段使い、キャンプ、車中泊、雪道突っ込みと、サーキット以外のシチュエーションでは大体使い尽くしたから。感無量だよ」

ターボとも乗り比べられたしね」


メーカーチューンドNAモデルであるオーテックバージョンのオーナーだからこそ、乗り比べでターボ(スペックR)との比較が出来たことは、助手席側としても良い経験だったかなと思います。新山さんシルビアのスペックは下記の通り。


◯日産 シルビア S15オーテックバージョン(2001年式6MT)

 

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エンジン: SR20DE型 水冷直列4気筒DOHC16バルブ(NA)

ボディサイズ:全長 4,445 × 全幅 1,695 × 全高 1,285 mm

ホイールベース: 2,525mm

トレッド:前/後 1,470/1,460mm

タイヤサイズ:205/55R16

車重:1,200kg

最高出力:200ps(147kW)/7,200rpm

最大トルク:21.8kg-m(213.8N・m)/4,800rpm

変速比:(1~6/後退)3.626/2.200/1.541/1.213/1.000/0.767/3.437

最終減速比:4.083

最小回転半径:4.9m


※スペックR (ターボ)のギア比は

変速比:(1~6/後退)3.626/2.200/1.541/1.213/1.000/0.767/3.437

最終減速比:3.692


※スペックS (NA5速MT)のギア比は

変速比:(1~5)3.321/1.902/1.308/1.000/0.838

最終減速比:4.083


※その他、オーテックバージョン化に伴うチューン項目はカタログをご参照ください

 

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「ターボのスペックRとギア比同じなんだ!……で、ファイナルだけがNAのスペックSと同じなんだね。ここで低速トルクの違いが出てるのかな。スペックRの方が、過給が効いてないときでもトルク感あったって言ってたもんね」

「スペックRの6速ミッションがそのまま載っかってるんだよ。既存の部品でコストを抑えつつ、加速寄りの減速比を求めた結果がその組み合わせだったんだろうね。ちなみに、オーテックとスペックSのファイナルは4.1なんだけど、走り屋定番チューンとして、日産の他車種で使われている4.3、4.6、4.9のファイナルギアを入れるなんていう流用チューンもありました。さすが流用の日産」


相変わらず妙に詳しいです。


「それ、シルビアでやろうとは思わなかった?」

「流石にね。低速トルクはほしかったけど、バランスも崩れるだろうなって」

「コンピュータチューンをやったと思うけど、その辺は?」

ECUのプログラム書き換えの話?パワー感はたしかに若干上がった。でも、車の買い替えを覆すレベルではなかったかな」


サファリサファリと騒ぎ出す前の話だったと思います。やっぱり昔から街乗りの低速トルクの細さには頭を悩ませていたようです。

 

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「せっかくだしいろいろと思い出を振り返ってほしいんですが、シルビアを買ったきっかけは?」

「長くなるけど」

「結構です」

「忘れもしない、2012年4月21日契約の、同年5月5日の納車でした。最初に買ったヴィッツから、念願のスポーツカーに乗り換えるにあたって、もちろんいろいろと見てはいたんだけど、これが近所に出て来ちゃって。見に行ったら、もうそれしか考えられなくなった」

「親父さんも乗ってたもんねシルビア。大学のとき、アレで筑波山まで乗っけてもらったのよく覚えてるよ」

「スニーカーとジーンズで登ったやつね」

「山登りって前もって教えてくれてりゃそれなりの服装で行ったよ!」


正確には「筑波山にいく」とは聞いていたものの「頂上まで登る」とは聞いていなかったという話です。ちなみにこの道中で、私はフォープレイを初めて聴いたという思い出があります。新山さんはリー・リトナー派とのことですが、私はラリー・カールトン派です。

 

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「ちなみに当時他に検討していた車種は、コペン(L880K)、ロードスター(NC)、スイフトスポーツ(ZC32S)辺り。で、スイスポ試乗後に寄ったコンビニの車ん中で、かねてから閲覧していた日産の中古車サイト見てたら、こいつが掲載されてまして。すぐに販売店に電話して見に行った。当時資金が皆無だったから、即決ができなくて。決断を1週間後の土曜日まで保留して、その間に祖母に『どうしても買いたい車がある。185万円貸してほしい』と頼み込みました。俗にいうおばあちゃんローンだね。ーーその後、快くローンを受け入れてくれた祖母に感謝しつつ、決戦の土曜日を迎え、とんとん拍子で判子をついたわけです」

「購入候補として、当時GT-Rは?」

「好きだったし憧れはあったけど、流石にね。今の値上がりを見ると、無理にでも買っときゃ良かったとは、少し思うけど」

「前にも聞いたけど、オープンカーに行かなかった理由については?」

「2シーターに踏み切れなかった。クーペとは言え、やっぱり後席のあるなしはデカイかなって。これも、今ならそんなこと気にしないんだけどね。買えばそれなりの使い方するだろうから」

 

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※2017年5月、キャンプで使用されるシルビア


その思いを聞いていたこともあって、逆に私がコペンを買うことになったのだから、物事の経緯とはおもしろいものです。


「買ったときの走行距離は?」

「約50,000km。今が約159,000kmだから、買ってから10万km以上は自走したことになるね」


単純計算で年間11,111km。週末ドライバーなので、週末だけで231km走っている計算になります。実際には長距離ツーリングの締める割合が大きいものと思いますが、少なくともシルビアでの生活を見ていた限り、「毎週末に200km乗り続けている」と言われても驚きはありません。


「ところでさ。こないだツイッターで『自分が日産党であることに初めて気づいた』って呟いてたけど」

「はい」

「自覚、なかったの?」

「全くありませんでした。ここ最近まで全く自覚してなかった」


嘘だろ!と叫んでしまいました。日産関係の話題は打てば響くように返ってくるので、長年完全に日産オタクだと思っていたからです。たしかに、何度か本人に尋ねても、「いや、特別に日産がってわけじゃないんだけど」とフラットな返事が返ってくる限りでしたが……。


まあ、目で追っかけていた車の情報が、気が付いたらほとんど日産車だった、ということなのでしょう。何とかは盲目と言いますし。意味合いは多少異なりますが。

 

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「あとは……そうだ、チューニング面。このシルビア、足回りをリフレッシュして、ARCインテークチャンバー入れて(※DIYでの装着時、なんとハンマーでガンガンにぶっ叩いて形を整えていた。本人曰く『付けるときは大体こうする』らしい)、エンジンルーム内に整流板を設置して、仕舞いにはアップガレージで買った補強バーを極寒の駐車場その場で施工して。純正然としたまま、動きをシャキッとさせる方向で手を入れていってたけども……、大分前にマフラー換えたじゃない」

「懐かしい。ヤフオクで競り落として取りに行ったやつね」

「マフラーだけは、何とも方向性の異なる気合を感じさせるものがあったんだけど、その辺り所感はありますか?」

「あー。……これは言われるまで気付かなかったな」


考え込む新山さん。


「深く考えたことはなかったけど、自分が車を運転する時、一番求めているものは、どれだけ『気持ちいい』かなんだよね。何を気持ちいいと感じるかは人それぞれだと思うけど、自分の場合、加減速や操舵の際に、自分の思った通りの動きを車がしてくれるかとうか。これが一番。その一方で『音』も人が気持ちよくなれる大切な要素だと思っていて、シルビアという車を自分がより気持ちよく乗るために何が必要か考えた結果、マフラーを交換することになった。そんな感じかな。ーーあと単純に、規制値ギリギリの音量を体感したかったという部分も大いにあります」

 

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※結局このマフラーにはしなかったものの、2017年1月、アップガレージで発見したシルビア用マフラーを試着し、タバコの箱を定規代わりに用いて最低地上高を確認する新山さん。シュールな絵面です


基本DIY派の男なので、遊びに行くと大体車の作業をアレコレやっていた思い出があります。つくづくジェフベックみたいなやつだと思います。


ちなみに本人のツイートを読み返したところ、シフトレバーも交換していたようです。R32・33GT-R用ニスモ製ソリッドシフト。本人曰く、シフト操作感が固く・重くなり、速度と回転数が合っていないとギアが入りにくくなるので、回転数を意識する良い練習になった、との感想。


「印象的だったドライブ先は?」

「そうだなー。……新潟かな。上越市の高田城址公園。桜見にいったやつ」

「懐かしい! 2014年のGW前だったかな(※八重桜が遅咲きなので4月下旬に満開となる)。午後に出かけて、夜桜見て、そのまま日帰りで帰ってきたやつだね。あれは帰り眠かった……。300km超の往復は、もしかしてあれが初めてだった?」

「ほぼ初めてだけど、実はシルビアを買った年の夏、両親を乗せて山形市までさくらんぼ狩りに行って、その帰りに喜多方ラーメンを食べて帰ってくるっていう、現在の長距離ドライブの原型とも思えるようなドライブをしてまして。あれが最初の日帰り長距離だったかな。でも高田城址公園が印象的だったのは、出発・帰宅の時間帯のエクストリーム感と、初めて自家用車で本格的に新潟県に行ったっていうワクワク感が心に残っているからだと思う」



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思えばコペンを買う前、この車でマニュアル操作の練習させてくれたこともありました。あちこち乗っけてってももらえたし、助手席の人間にまで多大な思い出をくれた車だったと思います。


私にとってクーペといえばS15シルビアで、車といえばS15シルビアと言っても過言ではないくらい、『車』に対する濃密な経験を与えてくれました。ありがとうシルビア。


「最後に何かコメントがございましたらぜひ」


「シルビアはスポーツカーとしては煮え切らないハンドリングとエンジンだけど、実用車としてはスポーティーな部類に入る、その微妙で不完全な立ち位置が、シルビアの持つ魅力の1つだと思います。どんな方向にも転がることができる、ギターでいうとストラトみたいな」


お疲れ様でした。

 

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梁井、コペンローブを降りる。

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このたび、車を買い替えることになりました。


2015年の夏にコペンローブが納車されてから、約8年。走行距離は78,000kmちょい。思えばこの車で、北海道の宗谷岬から鹿児島の先っちょまで、あちこちよく走ったものです。その他、東北、北陸、信州、四国、山陰山陽と、車で行けるエリアは一通り走破したのではないでしょうか。


『乗り換え』の4文字がぼんやり頭に浮かび始めてから2年とちょっと。この間、私の周囲におけるマイカー事象は、それはもういろいろなことがありました。


AMG V8の虜になったライトウェイトスポーツ乗り。エアサスを入れて悦に入っている60年代旧車オーナー。楽器弾きだったものの楽器メーカーに就職した為か趣味の楽器から遠ざかり結果としてサーキットにハマり始めたRX-8乗りの若者。オープンカーに心奪われた水平対向の距離ガバ氏。ーーそして、この1年半で4台の車を買うに至った新山さん。


まだまだ知識はないものの、おかげで様々な刺激、車に対する考え方、車に対する多種多様なスタンスに触れることができまして、自分が次の車に何を求めれば満足できるのか、概ね固まってまいりました。各位には感謝しております。


というわけでこれからしばらく、自身の買い替えに至るまでの経緯を、記事として書き残していきたいと思います。『自身の』と言いながら、メインは新山さんの買い替え車にひたすら横乗りしていった所感になると思うのですが…。合わせて納車までの間、周囲の皆の愛車と、それぞれのスタンスと、私が感じた思いを振り返っていけたらいいなと思っております。

 

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初撃として、まずは8年乗った私のコペンを振り返らせていただきます。いやホント楽しい車だった…。


コペンローブ(2015年式5MT)

 

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エンジン:KF型 658cc 水冷直列3気筒12バルブDOHCインタークーラーターボ

ボディサイズ:全長 3,395 × 全幅 1,475× 全高 1,280mm

ホイールベース:2,230mm

トレッド:前/後 1,310/1,295mm

タイヤサイズ:165/50/R16

車重:870kg

最高出力:64ps(47kW)/6400rpm

最大トルク:9.4kg・m(92N・m)/3,200rpm

変速比:(1~5/後退)3.181/1.842/1.250/0.916/0.750/3.142

最終減速比:5.545

最小回転半径4.6m


軽快で、ぶん回せる、元気で気の良い小型犬みたいな、パートナーとして最高のオープンカーでした。


買い替えの理由となった大きなポイントは、おもちゃのようなエクステリアと、『助手席に人を乗せる』という行為に向かないコペンの特性です。

 

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これはひとえに見栄の問題です。歳を取るごとに着ている服や身に付けているものが追いつかなくなって、趣味が変わるタイミングが30歳を過ぎるとあると思うのですが、アレと同じだと思います。


気の置けない友人を乗せる分には何の問題もありません。出来ればそいつの髪が風に煽られても特に支障がなく、車内の狭さを気にしない人間で、『シートからのロードインフォメーションは程よくあった方が助手席といえど車に乗っている感覚があって良い』と判断し得るタイプであれば、なお適していることでしょう。


仮に、仮にですけど、女性を駅まで迎えに行くことを想像してみてください。


この車を初めて見た第一声は大体「可愛い車に乗ってるね」で、彼女の手荷物が足元における小さなバッグのみであることに安堵しながら、助手席のドアを開け、車内に迎え入れます。ドリンクホルダーは後付けのものがエアコン吹き出し口のセンターに1つ。それ以上は体を捻って手を伸ばす必要のあるセンターコンソール後方に2つ。自身のコーヒーはすでにそちらに移動させてあります。「狭くない?」「大丈夫」などと会話を交わしながら、シフトチェンジの際に肘がぶつからないよう、普段の倍の慎重さで運転をスタート。「わあ低い!」「速く感じる!」という自身で運転していても定期的に思う感想を聞きながら、「…この車オープンカーなんだよね」「開けてみる?」という提案は、彼女の長い髪と、ウィンドウ越しの炎天下を目にした私の口からは、最後まで発せられることがないーー。


まあこれは、『じゃあ次に乗り換える車はこういうシチュエーションに極めて適合したものなのか』というと、機能的にはともあれ、一抹の不安はあるのですが…。


閑話休題。もう1つの理由として、遠出や峠登りに向かないコペンのローパワーです。

 

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100km/h巡航時のエンジン回転数は約4,000rpm。低い屋根の為、真夏なんかだとクローズドの状態でも、常に元気全開に走る小型犬を炎天下の中で散歩させている気分です。


長距離ツーリングになると大体時期は夏休みで、どうしても一番走行時間が長くなるのは、炎天下の日中なのです。コペンはここでゴリゴリと運転手の体力を削ってきます。


こればかりは、そんなこたぁ気にしないまま、高揚感のままにあちこち走り回れる、若いうちに乗ってよかったと、しみじみ思います。


 

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上記に漠然としたモヤモヤを覚えつつも、それでもコペンは最高の車でした。


夕方、買い物帰り。涼しくなった時間帯を、オープンにしてのんびりと走る。


軽快で、キビキビと走って、回転の吹け上がりには何の不満もなく、何なら乗る度にフィーリングが滑らかにさえなっていく。


シフトダウンして、カーブを曲がって、グイグイと伸びていく車速。視点が低くて喫水も浅いから、速度以上に気持ちがいい。移動する露天風呂に浸かっているような気分。


おそらくはこの先、いつもの街中をのんびり走るたびに「こういう何気ない道でコペンは本当に楽しかったな」とひたすらに思い返すことでしょう。


今でも覚えていますが、購入前の試乗で、さいたま新都心の坂のある街並みをパラパラと走ったとき、夕方の山手通りを流したとき、レンタカーでよく晴れた地元の田園地帯をぐいぐいと走ったときの爽快感と、これが日常で手に入るんだと思ったときの喜びと高揚感は、多分生涯忘れることはなくて、今でも思い返すたびに泣きそうになります。


実際、その喜びはこの8年間、常に私のすぐそばにあり続け、楽しいときだけでなく、苦しいときも、悲しいときも、変わることなく生活に彩りを与えてくれました。



じゃあなんで乗り換えるんだよという話は追って記事に書き記すとして、当記事は8年支えてくれた愛車への感謝で締めたいと思います。サンキューコペン。フォーエバコペン。あと1,2週間だけど、どうかよろしくお願いします。

 

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2nd EP『Pastoral - EP / Tender Heart Craftworks』

2枚目の音源を出しました。今回は5曲入りのアコースティックソロギター集です。

 

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全曲、Lowden F32Cでの演奏です。こいつの音をきちんと残しておきたかったというのが、今回の一番の動機であります。


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<各所サブスク配信リンク>

https://big-up.style/QucogQisXr

 

ソロギターの録音というのは言ってしまえば露出のようなもので、曲が出来上がった後の本チャン録音は地獄を極めましたが、完成した喜びはひとしおでした。誤魔化しが効かない分、恥ずかしさも大いにありますが、これが今自分に出せる演奏の全力だと思います。そういった己を曝け出す行為に対する、謎の羞恥と快感がありますね。ネタが出来たらまたやりたいと思っています。

 

各曲の備忘というか、ライナーノーツ的なものを書き残しておこうと思います。4. Wintergreenのみレギュラーチューニング、他はすべて1音下げのDGCFADチューニングです。

 

1. Pastoral

Craig D'AndreaというCandyRat Records所属のソロギタリストが好きなのですが、彼のように牧歌的な、誰かが田園風景を静かに眺めている眼差しのような、朴訥と優しい曲を弾きたいと思って作った曲です。

ジャケットの写真が地元の川沿いの土手で、この風景を毎日眺めて通学していたこともあって原風景が牧歌的なようです。「こういうのが好きなんだ」を少しは形に出来た気がしています。


2. Tiny Candles

好きだった友人が3人いたつもりなのですが、多分もう集まることはないだろうとそこそこの悲しみにふけっていたとき、手慰みに作った曲です。こういう曲の作り方をしたのは初めてですが、自分の中では今回の核心になりました。彼ら彼女らに対するプラスの感情が少しでも伝わってくれれば嬉しく思います。

1:40〜の展開が出来てようやっと本EPが完成しました。サンキューみんな。

 

3. Church's

仕事ではちゃめちゃに怒鳴られて悲しい思いをした日、夜な夜なローデンを弾いていたら出来た曲です。Am7(ポジション上。実音はGm7)から始まるという辺り、当時の感情を思い出して笑えてきます。フレーズが捻りもクソもなくどストレートです。

1:15以降のブリッジ展開は例によって後から作ったのですが、開放弦をうまく使ったフレーズが出来たので気に入っています。

ちょうどブリッジ展開を作っていた頃、当時はちゃめちゃに怒鳴られたお方から、「また飲みに行こうや」と言ってもらえたのが印象的でした。ちっとは認めてもらえたんだろうか。

曲名はイギリスの革靴メーカーからです。作った当時ここのストレートチップを買ったばかりだったので。

 

4. Wintergreen

キャンプにハマった頃にちょうどゆるキャンが始まりまして。

モンベルの店内BGMや、ゆるキャンの劇伴で流れていそうな、ネイチャー感溢れるソロギターが弾きたいなと思い、せっせと作った曲です。当時はまだローデンを持っていなかったのでテレキャスターで作った思い出。

他の曲は全て1音下げチューニングで弾いていますが、これだけレギュラーで弾いています。明るさを出したかったので。

 

5. AM2:00

1曲目が朝方のイメージが強い曲だったので、最後に真夜中の雰囲気のある曲を入れたら時間経過の流れがいいんじゃないかと思い、無理やりねじ込んだ小曲です。2018年5月31日に作ったので、「もう6月か」と当時は仮タイトルでJuneと呼んでいました。

弾きやすい曲なので手癖としてよく弾いています。楽器屋の試奏でこれを弾いてる人間がいたらまず私だと思います。

 

 

馴染みの地元の友達が「そういえば2作目のやつ、ダウンロードしたんだけどさ」と言ってくれたのがかなり嬉しかったです。

 

「え?落としてくれたの?」

「うん」

「600円払って? サブスクやってなかったっけ?」

「うん。入ってなかったから」

「マジか。それは…」

「あ、でも買った後に入ったよ。サブスク」

 

謎です。ともあれ、聴いてくれた皆様、ダウンロードしてくれた皆様、ありがとうございました。極めて個人的な演奏ですが、聴いてくれて心より嬉しく思っています。

梁井の異常な奏法〜または私は如何にして心配するのを止めて指弾きを愛するようになったか〜

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指弾きに切り替えたときの話です。


ギターの弾き方で悩んでいるどなたかの一助になれば幸いです。「こんなやり方で果たしていいのか」と悩んでいても、人間割り切ってしまえばそれはそれで何とかなるものです。



中学生の頃にギターを始め、思えば20年以上が過ぎました。


歴だけ見ればベテランもいいところですが、「私は一応ギターが弾けるのだ」と確信が持てるようになったのは概ねこの3年くらいの話で、それまではむしろカケラもイメージ通りに動かない指先に対するコンプレックスの方が遥かに強い状態でした。よくもまあ、鬱々としたままそれまで弾き続けたものです。


続けられた理由は、人と合わせる経験をうまいこと間に挟めたからだと思います。


「弾けない」という思いのまま鬱々としていた期間は、今思い返せばすべて「アンサンブルの機会がなく1人で弾いていた」時期でした。それだけ「合奏の中で1パートを担う」という行為は、演奏の基本で、かつ音楽に対するマインドを割と安定させる行為なんだと思います。人間は本能的に、集団の中で承認されることに心地良さを感じるものです。


が、大学に入学するまで人と演奏する機会がなく、卒業してOBサークル活動も休止して以来、誰かと音を合わせる機会を逸した私は、「楽器を自在に奏でる」という行為に強烈な憧れを抱きながらも、全くイメージに近づけないまま鬱々とする期間の方が圧倒的に長かったのです。


突破口になったことは2つ。

 

1つは定期的な録音練習を始めたこと。もう1つは、ギターの弾き方で死ぬほど苦手だったことを諦めたことです。具体的に言うとピックを捨てたことです。

 


私はピックを使わない指弾き野郎ですが、「人差し指の爪先をピックに見立てたエセピック奏法」がもっぱらの主流で、小沼ようすけ氏やクラシックギタリストのようなアポヤンド&アルアイレ奏法はあまり使いません。また、ジェフ・ベックや指弾き時のジョン・メイヤーのように、親指と人差し指でグーサインのようにして弾く奏法も滅多にやりません。というよりうまく出来ません。


ストロークは、ダウンが人差し指、アップが親指でかき上げる形です。これもわりと特殊なのか、同じ弾き方をしている人は今のところ直接見たことがありません。我ながらカッティングのときは気持ちの悪い動きをしていると思います。


アルペジオは、クラシック・ソロギターの出身であるのでpima奏法の方が多いです。が、速いハネ感のあるアルペジオのときは爪先のエセピック弾きを使いますし、最近は意識せずにpimaと人差し指爪先を併用していることの方が多いです。


何でこんな訳の分からない弾き方になったのかというと、カッティング時にピックが飛んでってしまう癖がどうしても抜けなかったからです。



思えばギターを始めてから一番時間を費やしていたのは和音の耳コピで、ベッドに寝転んで音楽を流したり、パソコンで適当なライブ映像を流しながらギターを抱え、聴こえて気になったコードをポロンポロンと鳴らして音取りをしていました。


そんな気の入らない状態でいちいちピックを手に取ることはあまりなく、自然と一番時間を掛けていた弾き方は「指でなんとなくポロポロ鳴らす」であって、おそらくこのせいでピック弾きが下手になったのではと考えています。加えて、小音量で弾く癖が付いてしまったので、しっかりとピッキングして音量を稼ぐ矯正に苦労した記憶があります。


で、エレキに手を出してカッティングなんかをするようになってからはもうダメです。握りが甘く、すぐにピックが弾かれて飛んでいってしまいます。


これが本当にストレスで、アンサンブルを引退して延々と家でエレキを練習していたある日、何でもないフレーズでピックがこぼれ落ちた瞬間にすべてに嫌気がさし、糸が切れたようにしばらくギターを手に取らない日が続きました。


一月ほど経ち、懲りないもので良さげなフレーズを耳にしたりすると、ぼんやりとしたままギターに手を伸ばして音を取るようになったのですが、珍しくソロ的な単音フレーズをコピーしていたときにふと、適当な弾き方のつもりであった「人差し指の爪先によるエセピック奏法」が、わりと手に馴染んでいることに気づきました。


「…………」


いつものように、ちゃんと音が取れたらピックに手を伸ばして練習しようと思っていましたが、考え直しました。これ、もしかしてずっとこのままでいいんじゃないか?



しかしすぐには踏ん切りがつかず、あれこれと悩む時期が続きます。


エレキ特有の速いブリッジミュート、メタリカのリフみたいな高速ダウンピッキング、16分の速弾きは、流石にピックじゃないと無理なんじゃないかと思っていました。おまけに爪があること前提で練習した場合、爪が折れたら伸びるまで弾けなったり、爪の伸び具合によって弾き方も変わったりするかもしれません。出来る奏法が限定させる可能性がある上に、変な癖が付いたら今より余計下手になることもあるでしょう。


実際にはこの時点で引き返せないレベルで変な癖が付いていたからこうなっているわけですし、上記全ての奏法は今のところ問題なく出来るようになっています。爪が折れたり削れたりして困ったことは今まで一度もありません。爪がなければないなりに弾けます。


それでも当時は弾き方を切り替える踏ん切りを付けるのに、結構な時間がかかりました。


なんせ自分と全く同じ弾き方をしている人間が見当たらないのです。こんな方法で突き進んでいいのか、流石に悩みます。


ただ、いろいろ調べていけば、ジェフ・ベックはキャリア中期から完全指弾きに切り替わったし、小沼ようすけ氏も途中からピックを完全に捨てていたし、ハードロックにもリッチー・コッツェンというフィンガーピッカーがいることを知りました。見てみると3人が3人とも奏法が違います。


まあ別にプロになるわけでもないし、自分の納得の範囲内で上手くなりたいなら、自分のストレスのない奏法で練習してった方が精神衛生上いいんじゃなかろうか。


最終的にはそう判断し、大体2014年くらいから、意識してピックを使わないようになりました。



結果としてフロントピックでのクリーントーンを多用するようになったので、爪や指の腹を使ったピッキングの方が音が映えるようにもなったし、自分なりにあれこれ考えて辿り着いた奏法ということもあって、今はそれなりに気に入っています。


ギターを弾くときにピックが見当たらない、落として困るというトラブルがない点も良いです。


人差し指の爪を切り過ぎたときは少しだけ困りますが、数日もすれば生えてきますし、急を要するときには付け爪を買ってきて貼れば良いです。十分です。

 

ギターはわりとカジュアルな側面のある、親しみやすい楽器だと思います。たとえばよくある、「Fコードで挫折する」という話も「別に6弦全部鳴らなくても伴奏上大きな問題はない」ということに気づいて弾けるところを弾くだけで、大分続けやすくなると思います。

 

弾けなくて思い悩んだとき、試行錯誤しながら「弾きやすい」「自分に合った」方法に回避してみることも続ける上では重要かと思うのです。私はおかげで今でもカッティング時にピックが使えないのですが…。