ー ORDINARY ー

※ 登場人物はすべてフィクションです。車と楽器とフィクションに塗れた会社員の日常を、のんべんだらりと書き綴っています。

梁井、インプレッサが気になり始める。

土井さんという先輩が会社の同じフロアにおりまして、アラフォー独身を皆に弄られまくる課長さんという、昼行灯を絵に描いたような人物なのですが、この人がインプレッサのGDA型に乗っていることを知ったのは、わりと最近になってからでした。
 
現場研修でお世話になったアテンザ先輩曰く、
 
「梁井、車ほしいんだって? おまえんとこのフロアにさ、土井っているだろ。おれの同期なんだけど。そいつに相談してみなよ」
 
「土井さんって車好きなんですか?」
 
「みたいだね。ランエボか何かに乗ってた気がするけど」
 
まったくイメージが湧きません。
 
というわけで、現場から帰ってから当人に「ランエボ乗ってるってホントですか?」と尋ねてみたところ、珍しくジロリと睨まれました。
 
「…だーれがそんなこと言ったの」
「荒川さんです」
「あんにゃろうまた適当なことを…ランエボじゃありませんよーだ」
 
よーだ、ってあなた。
 
かくして、土井さんの愛車はインプレッサWRXであり、群馬の太田市に行ってきたと話すと「お膝元じゃん」と嬉しそうにし、86が気になっていると話すと「ああ、BRZ?」とすかさず訂正してくるなど、どうもこの人俗に言うスバリストらしいと、さすがの私も気づくに至りました。
 
「いや別にスバルマニアってわけじゃ全然ないけど…BRZねえ。あれって根本がボクサーエンジンのクーペなわけでしょ?重心の低さを売りにしてるから、あんまりヒラヒラ感はないはずなのよ」
 
「じゃあ、ドッシリって感じですか?」
 
「とまではいかなくても、シッカリ路面に食いつく感じだと思うよ。スバルのクーペだからね。トヨタの方乗ったらまた印象違うんだろうけど。梁井くん、ロードスター乗って楽しかったんでしょ? そういう軽い車の方が合ってるんじゃない?」
 
重心が低くてロールが少なく姿勢が安定しているBRZと、クイックなハンドリングの性格付けと軽量さでヒラヒラ感があるロードスター、という感じでしょうか。それぞれの利点や性格の根本的な要因はまだよくわかりませんが、おかげでイメージはつきました。
 
「土井さんのインプレッサって、セダンですか?」
 
「うん。二代目の中期型。涙目のやつ」
 
STIなんですか?」
 
「いや。GDAだから普通のWRXだね。ただ、インタークーラーとボンネットのダクト変えて、ブレーキキャリパーとローター交換して、足回りちょこちょこ弄ってGDBっぽくしてある」
 
近くにいた女子社員が引いています。
 
しばらくして、土井さんの白いGDAは職場の皆からドイプレッサの愛称で呼ばれるようになり、皆でスノーボードに行くときには、私の上司のアウトランダーと共に輸送力の要として(5人乗れる車が他にないため)重宝されるようになるのですが、それはまた別の機会があれば書きたいと思います。…土井さんの紹介文みたいになってしまいましたが、書きたかったのはインプレッサという車の人気性についてです。
 
レガシィに代わり、WRCで勝つために開発されたその生い立ち。ボクサーエンジンのAWDスポーツセダンという、地味なのか派手なのかよくわからない、けど確かな特性。初代レガシィから20年以上脈々と更新され続けるEJ20エンジン。STIモデルの存在。コリン・マクレーのぶっ飛びそうな爆走と、比較され続けるトミ・マキネンランエボ
 
土井さんの涙目インプを初めて見たときは私も素直にかっこいいなーと思ったのですが、インプレッサやスバルが好きな人は、わりとどころでなく本当に好きですよね。正直STIまでいくとオーバースペックもいいところで、なぜここまでスバル愛好家がいるのか、イマイチピンとこなかったのですが、当時のWRCの動画を見て、少し理由がわかりました。レースで走る深いブルーのWRXは、たしかに見惚れるほどかっこよかったです。
 
この車を欲しがる人は、「レースで活躍しているあの車に自分も乗りたい」っていう人も多いんじゃないかと思いました。
 
求めるスペックに適合するから買うというより、「いつかあの車をあんな風に走らせてみたいな」と思わせるのがモータースポーツ、特にラリーの魅力で、だからこそ当時のスバルはあそこまで、ビジュアルもレース車両に近いWRXに注力したのかもしれません。
 
かくいう私も最近のニュル24時間耐久を見るたびに、WRXに試乗してみたくなる日々を送っています。高すぎて買えないけど。
 
というわけで土井さん、今度ドイプレッサ乗せてください。