ー ORDINARY ー

※ 登場人物はすべてフィクションです。車と楽器とフィクションに塗れた会社員の日常を、のんべんだらりと書き綴っています。

新山さん、増車する(スバル・サンバーディアスワゴン)。その1。

S15シルビアのオーテックバージョンという珍車を駆り、早10年ちょい。


次なる車に、『余裕で車中泊が出来る』『雪道にガンガン突っ込める』『超長距離をゆったり走れる』などの要素を求めて、数々の車を見てきた、我が友人の新山さん(求めていると言いながら上記の全てをシルビアで敢行している)。


サファリに心を掻き乱されながらも、最終的に選んだ車は下記の通りでありました。

 

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「スバル・サンバーディアスワゴンです」

「軽じゃん!それも過給なし!ツアラーとしての役割はどうした!」

「最後のは諦めました。というかその役割は、今後シルビアに負わせます」


まさかの増車。2台持ちです。


「シルビア、手放さないの?」

「いろいろ考えたけど、無理だわ。愛着もあるし、ハンドリングが良くてキビキビ走るタイプの車は、今のところ手放せそうにない。2台目が軽なら維持費も抑えられるしね。ーーそんなわけで、しばらくシルビアとサンバーの2台体制で行きます。いやあ、気分でその日の車選べるの、控えめに言って最高だよね」

ゼルビスフォルツァZも入れたら4台持ちじゃん」


2016年に『バイク降りてシルビアに集中しようと思って』などと話していた人間の発言とは思えません。


ともあれ、アレから足掛け5年。念願の『フルフラットにして車中泊できる四駆』を手にした新山さんです。雪道ドライブと長距離運転のお試しを経て、今度は都内に試運転に行くとのことでしたので、ついでに同乗させてもらいました。


◯スバル・サンバーディアスワゴン(2006年式)


エンジン: EN07F型 658cc 水冷SOHC8バルブ EMPi 直列4気筒

ボディサイズ:全長 3,395 × 全幅 1,475 × 全高 1,900 mm

ホイールベース: 1,885mm

トレッド:前/後 1,280/1,280mm

タイヤサイズ:165/70R13

車重:980kg

最高出力:48ps(35kW)/6,400rpm

最大トルク:5.90kg-m(58N・m)/3,200rpm

変速比:(1~5)4.090/2.470/1.615/1.125/0.861/

最終減速比:6.500


最小回転半径3.9m

 

「珍スペック過ぎる…」

「要するに軽トラのスペックなんだよね。こいつはワゴンだけど、歴史的な軽トラ・軽バンの仕様と同じで、前輪が運転席の真下にある。だからショートホイールベースで、旋回性がアホみたいに高いんだよ。

 ーーなお、言うまでもないですが、駆動方式はスタンバイ式の4WD。基本レイアウトはRRです。通称『農道のポルシェ』」

 

 

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※やたら短いホイールベースと突き出たノーズの図。フロントタイヤの真上に運転席があり、リアタイヤの真上にエンジンが積まれています


サンバー。1961年から綿々と続く、スバル最長寿車種です。


軽規格のフルキャブオーバーバン。スバル360の応用からRRレイアウトが採用され、2012年まで一貫して上記の仕様が継続された、言ってしまえば珍車です。バンを主軸に、トラック、ワゴンタイプをシリーズにラインナップしています。


2012年のスバルの軽自動車事業撤退から、サンバーシリーズの自社生産も終了。現在はダイハツハイゼットOEM車として販売が継続されていますが、エンジン搭載位置がフロントとなり、『農道のポルシェ』の歴史は終了することになりました。


ちなみに、役目を終えたスバルのサンバー生産ラインは、その後86・BRZのラインに使われているとのことです。なんというかこの辺り歴史を感じます。



適当な昼食を摂り終えて待っていると、『着』とのメールが着信。部屋の前に出ると、黒いサンバーが停まっていました。


「違和感がある」

「まあ、10年間シルビアだったからね」


近くの自販機で缶コーヒーを買い込み、助手席に乗り込みます。


「視点は結構高いんだね」

ハイエースとかキャラバン程じゃないけど、見通しもいいから運転はしやすいよ。じゃ、行きます」


始動音。わりと元気のいい音がします。


「うわ!音が後ろから聴こえる!」

「これは不思議な感じするよね」

「すげえ。…音量もちょっと大きい気がするけど、遮音性の問題かな」

「それはあるかもしんない。元がバンだもんね」


あまとう氏のカルマンギアと、もっと昔に知人のボクスターに乗せてもらったことがそれぞれ一度あるので初めてではありませんが、リアエンジンの音を聴くのは人生で3度目です。なかなかに気持ちが盛り上がります。


発進。国道に出て、しばらく定速で走ります。


「わりとこう、ガタガタギシギシ音がするね」

「バスみたいだよね。静かじゃないけど、オモチャ感があってそんなに悪くない」

「……今、2速発進した?」

「した。わりと1速が、ぐわーっと回転上がってっちゃうんだよ。コペンよりかなりローギアードだと思うよ。1速は渋滞のとき、クラッチだけ繋いで微速前進用に使ってる」


こんなところもバスみたいです。


調べてみたところ、1速4.0以上、最終減速比6.5以上という変速比は軽トラ仕様では珍しくないみたいで、『積載量が多いときに1速発進、軽いときは2速発進』というセオリーは、わりと使われているようです。知っててやってるのか、体感で思い付いたのか…。


国道を直進します。さして混んでもいないので、前がペースを上げればこちらも踏んで加速するシーンが増えてきました。


「そういえば、NAエンジン買ったんだね。前にサンバー気になるって話してたとき、『スーパーチャージャー付きのもある』って言ってたけど、そっちにしなかったの?」

「値段も結構違うし、近くにあった出物がNAだったから。少し迷ったんだけど、まあ、NAでいいかなと」


シルビアでもターボではなくNAモデルを選んだ剛の者です。以前のスペックRとの乗り比べの経験も効いているのかもしれません。

 

「実際乗ってみてどう?動力性能は」

「めっちゃ遅い。ちょっと不便なくらい遅い」


率直です。


「そんなに?」

「高速だと特にそれが顕著でさ。基本80km/hで左車線走行。登り勾配に差し掛かると80km/hも維持できないし、追い越しかける場合は、かなり前から加速しないと抜けないから、相当前見て運転することになる。回転数も4,000rpmやら5,000rpmやらで走り続けることになるから、すげー疲れるよ」

コペンはターボもあるから、巡行中も踏めば進むけど…」

「これはね、踏んでも進まない。今シフトダウンして4速全開にしてるんだけど」


コペンの5速で軽くアクセルを踏み込んだときのような進み方です。


「まあでも、街中では使い切る感があって良いかな。良くも悪くも回さないと進まないから。ホイールベースが短いし、前輪が運転席の真下にあって鼻先が出てる分、ブレーキ気をつけないと前が沈み込むから、姿勢作るのにも気を使うし。運転上手くなりそう」

 

たしかに、急制動をかけると思いっきりノーズダイブします。これはブレーキが上手くなりそうです。


「ちょっとコペンの走行感覚と似てる気がするな。エンジンが頑張って回って、トルクを絞り出してる感じ。ーーあと、市街地の快走路は、むしろシルビアより速く感じるんだけど」

「シルビアの安定性が(比較して)高いからかもね。直進安定性の高いツアラーに乗ってると、スピード感がないままスピードが出てるのと同じ理屈かも。……比較対象が適切じゃない気はするけど。あとね、これ、軽にしては重い。1,000kg近くある。遅いのはそこも原因なんだろうな」


重量は980kg。コペンより100kg以上重いです。調べてみたところ現行軽バンは大体同じくらいなので、車両形態の宿命なのかもしれません。


続きます。