ー ORDINARY ー

※ 登場人物はすべてフィクションです。車と楽器とフィクションに塗れた会社員の日常を、のんべんだらりと書き綴っています。

新山さん、シルビアを降りる。

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私のコペン乗り換えに1年先んじて、新山さんが約10年間乗り続けたシルビアを降りました。2021年8月のことです。

 

思えばこれが、その後に続く紆余曲折のすべての始まりであって、私がコペンを乗り換えるに至った経緯の1つでもあります。ある意味ではコペンより乗っていた車です。別れの際には流石に寂しさが強かったことをよく覚えています。


幸いにも、乗り換え前日のドライブに同乗させてもらうことが出来たので、そのときの会話を軸に、新山さんのシルビアを振り返っていきたいと思います。


……その後の紆余曲折と、最終的に新山さんが辿り着いた某MTのスポーツセダンのことを考えながら当時の会話を読み返すと、中々におもしろいものがあります。それでは。


 

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迎えが来た知らせはいつも「ズモモモモ」というシルビアの野太いエグゾースト音で、本人からの「着きました」というメールが届くよりも先に到着に気づくことになります。


交換されたマフラーが元に戻されているので、いつもより音が控えめなのが寂しいところです。音が家の前まで来るとすぐに「オォン」という一鳴きでエンジン音が治るのは、近所迷惑を鑑みた新山さんがすぐさまエンジンを停めるからです。


「おはようございます」

「おはようございます。……この音も今日で最後か。よろしくお願いします」


発進。本日はとりたて目的もないので、県内の道の駅と、記念撮影の為にだだっ広い駐車場のある公園に向かいます。


「どうですか、今日という日を迎えて」

「まあ寂しいよね。ラストドライブは明日の納車受け取りと下取りのときだから、おれはまだ後1日あるけど。でも、2012年から9年ちょっとか……。味わい尽くしたと思うよ。シルビアでツーリング、普段使い、キャンプ、車中泊、雪道突っ込みと、サーキット以外のシチュエーションでは大体使い尽くしたから。感無量だよ」

ターボとも乗り比べられたしね」


メーカーチューンドNAモデルであるオーテックバージョンのオーナーだからこそ、乗り比べでターボ(スペックR)との比較が出来たことは、助手席側としても良い経験だったかなと思います。新山さんシルビアのスペックは下記の通り。


◯日産 シルビア S15オーテックバージョン(2001年式6MT)

 

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エンジン: SR20DE型 水冷直列4気筒DOHC16バルブ(NA)

ボディサイズ:全長 4,445 × 全幅 1,695 × 全高 1,285 mm

ホイールベース: 2,525mm

トレッド:前/後 1,470/1,460mm

タイヤサイズ:205/55R16

車重:1,200kg

最高出力:200ps(147kW)/7,200rpm

最大トルク:21.8kg-m(213.8N・m)/4,800rpm

変速比:(1~6/後退)3.626/2.200/1.541/1.213/1.000/0.767/3.437

最終減速比:4.083

最小回転半径:4.9m


※スペックR (ターボ)のギア比は

変速比:(1~6/後退)3.626/2.200/1.541/1.213/1.000/0.767/3.437

最終減速比:3.692


※スペックS (NA5速MT)のギア比は

変速比:(1~5)3.321/1.902/1.308/1.000/0.838

最終減速比:4.083


※その他、オーテックバージョン化に伴うチューン項目はカタログをご参照ください

 

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オーテックって、ターボのスペックRとギア比同じなんだ!……で、ファイナルだけがNAのスペックSと同じなんだね。ここで低速トルクの違いが出てるのかな。スペックRの方が、過給が効いてないときでもトルク感あったって言ってたもんね」

「スペックRの6速ミッションがそのまま載っかってるんだよ。既存の部品でコストを抑えつつ、加速寄りの減速比を求めた結果がその組み合わせだったんだろうね。ちなみに、オーテックとスペックSのファイナルは4.1なんだけど、走り屋定番チューンとして、日産の他車種で使われている4.3、4.6、4.9のファイナルギアを入れるなんていう流用チューンもありました。さすが流用の日産」


相変わらず妙に詳しいです。


「それ、シルビアでやろうとは思わなかった?」

「流石にね。低速トルクはほしかったけど、バランスも崩れるだろうなって」

「コンピュータチューンをやったと思うけど、その辺は?」

ECUのプログラム書き換えの話?パワー感はたしかに若干上がった。でも、車の買い替えを覆すレベルではなかったかな」


サファリサファリと騒ぎ出す前の話だったと思います。やっぱり昔から街乗りの低速トルクの細さには頭を悩ませていたようです。

 

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「せっかくだしいろいろと思い出を振り返ってほしいんですが、シルビアを買ったきっかけは?」

「長くなるけど」

「結構です」

「忘れもしない、2012年4月21日契約の、同年5月5日の納車でした。最初に買ったヴィッツから、念願のスポーツカーに乗り換えるにあたって、もちろんいろいろと見てはいたんだけど、これが近所に出て来ちゃって。見に行ったら、もうそれしか考えられなくなった」

「親父さんも乗ってたもんねシルビア。大学のとき、アレで筑波山まで乗っけてもらったのよく覚えてるよ」

「スニーカーとジーンズで登ったやつね」

「山登りって前もって教えてくれてりゃそれなりの服装で行ったよ!」


正確には「筑波山にいく」とは聞いていたものの「頂上まで登る」とは聞いていなかったという話です。ちなみにこの道中で、私はフォープレイを初めて聴いたという思い出があります。新山さんはリー・リトナー派とのことですが、私はラリー・カールトン派です。

 

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「ちなみに当時他に検討していた車種は、コペン(L880K)、ロードスター(NC)、スイフトスポーツ(ZC32S)辺り。で、スイスポ試乗後に寄ったコンビニの車ん中で、かねてから閲覧していた日産の中古車サイト見てたら、こいつが掲載されてまして。すぐに販売店に電話して見に行った。当時資金が皆無だったから、即決ができなくて。決断を1週間後の土曜日まで保留して、その間に祖母に『どうしても買いたい車がある。185万円貸してほしい』と頼み込みました。俗にいうおばあちゃんローンだね。ーーその後、快くローンを受け入れてくれた祖母に感謝しつつ、決戦の土曜日を迎え、とんとん拍子で判子をついたわけです」

「購入候補として、当時GT-Rは?」

「好きだったし憧れはあったけど、流石にね。今の値上がりを見ると、無理にでも買っときゃ良かったとは、少し思うけど」

「前にも聞いたけど、オープンカーに行かなかった理由については?」

「2シーターに踏み切れなかった。クーペとは言え、やっぱり後席のあるなしはデカイかなって。これも、今ならそんなこと気にしないんだけどね。買えばそれなりの使い方するだろうから」

 

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※2017年5月、キャンプで使用されるシルビア


その思いを聞いていたこともあって、逆に私がコペンを買うことになったのだから、物事の経緯とはおもしろいものです。


「買ったときの走行距離は?」

「約50,000km。今が約159,000kmだから、買ってから10万km以上は自走したことになるね」


単純計算で年間11,111km。週末ドライバーなので、週末だけで231km走っている計算になります。実際には長距離ツーリングの締める割合が大きいものと思いますが、少なくともシルビアでの生活を見ていた限り、「毎週末に200km乗り続けている」と言われても驚きはありません。


「ところでさ。こないだツイッターで『自分が日産党であることに初めて気づいた』って呟いてたけど」

「はい」

「自覚、なかったの?」

「全くありませんでした。ここ最近まで全く自覚してなかった」


嘘だろ!と叫んでしまいました。日産関係の話題は打てば響くように返ってくるので、長年完全に日産オタクだと思っていたからです。たしかに、何度か本人に尋ねても、「いや、特別に日産がってわけじゃないんだけど」とフラットな返事が返ってくる限りでしたが……。


まあ、目で追っかけていた車の情報が、気が付いたらほとんど日産車だった、ということなのでしょう。何とかは盲目と言いますし。意味合いは多少異なりますが。

 

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「あとは……そうだ、チューニング面。このシルビア、足回りをリフレッシュして、ARCインテークチャンバー入れて(※DIYでの装着時、なんとハンマーでガンガンにぶっ叩いて形を整えていた。本人曰く『付けるときは大体こうする』らしい)、エンジンルーム内に整流板を設置して、仕舞いにはアップガレージで買った補強バーを極寒の駐車場その場で施工して。純正然としたまま、動きをシャキッとさせる方向で手を入れていってたけども……、大分前にマフラー換えたじゃない」

「懐かしい。ヤフオクで競り落として取りに行ったやつね」

「マフラーだけは、何とも方向性の異なる気合を感じさせるものがあったんだけど、その辺り所感はありますか?」

「あー。……これは言われるまで気付かなかったな」


考え込む新山さん。


「深く考えたことはなかったけど、自分が車を運転する時、一番求めているものは、どれだけ『気持ちいい』かなんだよね。何を気持ちいいと感じるかは人それぞれだと思うけど、自分の場合、加減速や操舵の際に、自分の思った通りの動きを車がしてくれるかとうか。これが一番。その一方で『音』も人が気持ちよくなれる大切な要素だと思っていて、シルビアという車を自分がより気持ちよく乗るために何が必要か考えた結果、マフラーを交換することになった。そんな感じかな。ーーあと単純に、規制値ギリギリの音量を体感したかったという部分も大いにあります」

 

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※結局このマフラーにはしなかったものの、2017年1月、アップガレージで発見したシルビア用マフラーを試着し、タバコの箱を定規代わりに用いて最低地上高を確認する新山さん。シュールな絵面です


基本DIY派の男なので、遊びに行くと大体車の作業をアレコレやっていた思い出があります。つくづくジェフベックみたいなやつだと思います。


ちなみに本人のツイートを読み返したところ、シフトレバーも交換していたようです。R32・33GT-R用ニスモ製ソリッドシフト。本人曰く、シフト操作感が固く・重くなり、速度と回転数が合っていないとギアが入りにくくなるので、回転数を意識する良い練習になった、との感想。


「印象的だったドライブ先は?」

「そうだなー。……新潟かな。上越市の高田城址公園。桜見にいったやつ」

「懐かしい! 2014年のGW前だったかな(※八重桜が遅咲きなので4月下旬に満開となる)。午後に出かけて、夜桜見て、そのまま日帰りで帰ってきたやつだね。あれは帰り眠かった……。300km超の往復は、もしかしてあれが初めてだった?」

「ほぼ初めてだけど、実はシルビアを買った年の夏、両親を乗せて山形市までさくらんぼ狩りに行って、その帰りに喜多方ラーメンを食べて帰ってくるっていう、現在の長距離ドライブの原型とも思えるようなドライブをしてまして。あれが最初の日帰り長距離だったかな。でも高田城址公園が印象的だったのは、出発・帰宅の時間帯のエクストリーム感と、初めて自家用車で本格的に新潟県に行ったっていうワクワク感が心に残っているからだと思う」



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思えばコペンを買う前、この車でマニュアル操作の練習させてくれたこともありました。あちこち乗っけてってももらえたし、助手席の人間にまで多大な思い出をくれた車だったと思います。


私にとってクーペといえばS15シルビアで、車といえばS15シルビアと言っても過言ではないくらい、『車』に対する濃密な経験を与えてくれました。ありがとうシルビア。


「最後に何かコメントがございましたらぜひ」


「シルビアはスポーツカーとしては煮え切らないハンドリングとエンジンだけど、実用車としてはスポーティーな部類に入る、その微妙で不完全な立ち位置が、シルビアの持つ魅力の1つだと思います。どんな方向にも転がることができる、ギターでいうとストラトみたいな」


お疲れ様でした。

 

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