ー ORDINARY ー

※ 登場人物はすべてフィクションです。車と楽器とフィクションに塗れたとある会社員の日常を、のんべんだらりと書き綴っています。

新山、シルビアのターボに乗る。その2。

首都高6号線から小菅、堀切ジャンクションを経由してC2に入り、湾岸道路を目指します。


即位礼正殿の儀の当日でC1が封鎖されており、交通量がどうかという心配していましたが、幸いなことにスッカスカです。こういう日はかえってみんな上を使わないのか。快走路のC2を、Spec-Rがタービンの回転音をキーンと響かせながら走っていきます。


「それにしても速いね」

「速い。てか、前に出てほしいタイミングでのダッシュ力があるから、結果的に速く感じるんだよね」


そういえば新山さん、コペンに初めて乗ったときも「速い」と言っていました。いつだったか、ボクスター乗り(タイプ986・NA)に運転してもらったときにも、出てきた感想は「思ったより速い」でした。排気量はそれぞれ2.0と2.6。コペン何倍あるんだって話です。


よくよく考えればこういうときにいう『速さ』とは速度のことではなく、踏んだときの加速力のことを指すことが多いんだろうと、今更ながらに実感しました。そもそもこのときも普通に法定速度で巡航中です。普段何気なく口にしてる言葉って、意外とイメージが曖昧なまま使ってたりするもんですね……。


「ちょっと無理やりだけどさ」

「何すか」

「ターボがハムバッカーで、NAがシングルコイルって感じがする」

「……そりゃまた思い切った喩えだね。ああ、でも分かる気がするな」


ギターのピックアップの話です。新山さんは基本フェンダー系シングルコイルのギターを愛用していますが、私はわりとレスポールストラトを取っ替え引っ替えする方なので、新山さんの喩えは思いのほかしっくり来ました。


「踏んだときのダッシュ力って意味でパワーがあるターボと、踏んだときも抜いたときもアクセルの反応が機敏なNA。ピックアップの出力が高くて纏まった音が出るハムと、ピッキングに気を使わないと良い音が鳴りにくいシングル。ーーなるほど、ちょっと似てる気がするね」

フライホイールの件があるから、ターボとNAっていうよりオーテックバージョンとSpec-Rの比較の面が強いけどね。ーーただこれ、全開走行になると多分ターボの方が手強いのかな?  トルクがある分、下手な踏み方をしたら空転しかねない気がする。それでも、サーキットとか行かずに普通に走る分には、楽なのはターボ、楽しいのはNAって感じだね」



大黒パーキングに到着。


夜は閉鎖されてばっかりなので、来るのは久しぶりです。車を停めると、新山さんはダッシュボードを開けて、いそいそと車検証を取り出します。

 

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「……レンタカー借りて車検証とメンテナンス簿読み出すやつ、そうそういないと思うんだけど」

「そう?  某ブラックバードさんも『車検証見れば大体のことがわかる』って言ってたじゃん」

「ありゃ車の大きさと前後重量配分の話でしょ。これどっちも同じじゃん」

「いやまあそうなんだけどさ……。どっちかというとメンテナンス簿が気になって。結構マメにメンテされてる感じがしたから、どんなもんかと思って」


言われてみれば、ボディーはやたらとキレイだし、ワックス掛けもされているようで手触りもよかったし、窓はやたらと雨を弾きます。レンタカーで酷使されているにしては、やれた感じがありません。


「……7月のメーター記録があった。すげえ、3ヶ月で10,000km以上走ってる。結構乗られてるんだなこの車」

「さすがに人気だねシルビア。それと、今気づいたんだけど、随分遠くから来たんだねこの車」


車検証入れを見ると、本州の端っこ辺りの日産ディーラーの名前が入っていました。


「うわホントだ。おれのは関東圏内で乗られてた個体だけど、こうして見るとなんか感慨深いな。初年度登録は……、平成11年か。最初期型だこれ」


しばらく内装外装をあちこち調べていきます。

 

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「お、バニティーミラー付いてんだね」

「そうなんだよ。シルビアのバニティーミラー、途中の年式からオミットされてるんだよね。おれの後期仕様だから付いてないんだよ」

「え。何それ。普通、内装仕様って増えてくもんでしょ。減ることなんてあるの?」

「要はコストダウンだよね。日産車、2000年に入ってからこういう地味なところの仕様が消えていくんだよ。ちょうどゴーンさんが入った時期だし、当時の経営状況を偲ばせるよね。ーーあとこれ、この音」


鍵を刺したままドアを開けると、キー抜き忘れの警告音が鳴ります。


「あ、音が違う」

「昔はこの音なんだよね。ポーン、ポーンって。今のはピピピピ、ピピピピ。この時期に変更されてるんだよ」


詳し過ぎます。

 

一体どこでこういう情報を得るのか。いつぞや、圏央道で遠方を走るプリメーラのウイング形状から「ありゃオーテックのだね」と判別した辺りから薄々感じてはいましたが、やっぱりこいつ、筋金入りの日産党だと思います。本人は頑なに認めませんが。


 

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大黒パーキングの名所、ベイサイドレストランにて、名物のサンマーメン辛味噌炒めラーメンを食い散らかし、のんびりと帰路につきます。ここのラーメン、量がやたら多くて味も旨くて好きです。

 


「いやーおもしろかった。どうですか、NAとターボ比べてみて。ターボ狂になった?」

「最初危うくなりそうだったけどね。……そうだなあ、やっぱりNAでよかったかなあ」


しみじみと語る新山氏。


「街乗りが楽なのは間違いなくこっちで、高速乗ってても6速巡行から加速できるし、踏めばやたら速いし、かなり印象はよかったんだけど。ーーここまで速くなくていいなってのが一番の感想かな。安楽さはこっちの方が上だけど、安楽さを求めるなら、別にシルビアじゃなくても良い気がするし。NAはやっぱり、ナチュラルでバランスがいいっていうのがよく分かった。いや乗ってよかったよ」

「乗り換え考えてたのに、まーたオーテックに愛着湧いちゃいそうだね。まあホントのかったね。……あとさ、今気づいたんだけど、おれ、この車ちょっと酔いそう」

「あ、やっぱり?」


高速巡行中、ふらふらと視線がブレる感覚があります。


「直進安定性はおれのやつの方がいい気がするな。おれのシルビア、サスペンションNISMOのに換えたり、ゴムブッシュ新しくしたり、剛性上げるためにあれやこれや試してたんだけど、あれは改悪になってなかったんだな。今回それが分かったのもよかったよ」


 

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無事愛車の元に辿り着いた新山氏。大変に楽しかったです。おれも今度またロードスターでも借りようかな…。

 

 

今回のオチとしては、これで少しは新山さんの乗り換え欲も治るかなと思いきや、それとこれとは話が別だったということです。最近は満足のいく出物もないようですが、果たしてどうなることやら……。

 

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終わります。