フーガ、再び。その2〜日産のハイブリッドは駆け抜ける喜びの夢を見るか〜
「アルピナB3から日産フーガに乗り換えた」という男の話を聞いた場合、世の車好きの方々は、その行為に対して一体どのような感想を抱くのか。
ある人は「エコな国産セダンに乗り換えたんだな」と理解するのかもしれませんし、実際、その解釈が当人の選択理由に一番近いと思います。ハイブリッドだし、そこそこお得な値段で市場にタマも転がってるし。
しかしこの車、日産が誇るVQ35HR型ーー高回転型の3.5L V6エンジンに、そこそこデカいモーターを組み合わせた、紛うことなきハイパワーカーです。そのシステム最大出力は、364馬力。


◯日産 フーガ ハイブリッド(2013年式・Y51型)
エンジン: VQ35HR型 3,498cc V型6気筒DOHC +モーター
ボディサイズ:全長4,945 × 全幅1,845 × 全高1,500 mm
ホイールベース: 2,900mm
トレッド:前/後 1,575/1,579mm
タイヤサイズ:245/50R18 / 245/50R18
車重:1,840kg
最高出力:306ps(225kW)/6,800rpm
最大トルク:35.7kg-m(350N・m)/5,000rpm
最小回転半径5.6m
モーター最高出力:68ps(50kW)
モーター最大トルク:27.5kg-m(270N・m)
システム最高出力:364ps(268kW)
「馬力もトルクもセグメントも、全部アルピナより上じゃねーか!」
「そうだよ。にも関わらず、カタログ燃費は最大16.0km/L(実測16.3km/L)。快適装備は至れり尽くせり。心臓部さえ壊れなければ何とかなる、日本車の安心感。ーー何より前期型のY51は、インフィニティじゃなくて日産エンブレムが付いてる。最高だね」


※前期後期でエンブレムが異なります。新山さん曰く「日産の迷走ぶりが感じられる」とのこと
2024年3月購入。購入時の走行距離は39,000km。1年後に59,000km。年間20,000kmを走破しています。
「今回の乗り換え、走行距離を抑える目的もあるって言ってなかったっけ」
「言ってたね」
「…………」
9ヶ月で15,000kmをサファリで駆け抜けた経験がある新山さん。年間20,000kmを超えなきゃセーブだと思っている節があるのかもしれません。
ちなみに私は走行距離はコペン時代から年間10,000kmです。ドライブ好きの一般ユーザーは、大体このくらいだと思う。
「ともあれ、中々にアンビバレンスな乗り換えじゃない? 節約の為の乗り換えにしては、スペックが上がり過ぎてるでしょ」
「まあ、そうだね。一応これ、日産のフラッグシップセダンだからね」
プレジデントはすでになく、シーマの最終型はフーガと同じY51型です。そもそもフーガ自体が2022年に生産終了になっており、今や生き残った日産のセダンはスカイラインのみとなってしまいました。寂しい話です。
前述の通り、今回の乗り換えについては一通り立ち会うことができたので、まずは経緯から書き記して行きたいと思います。
◇

ある日のDM。私と新山は彼此20年以上の付き合いですが、未だにツイッターのDMで連絡を取り合っています。理由は我々も不明。
ここに至るまでの葛藤は1話に譲るとして、記載の通り、我がF30B3で近所のBMWショップに向かうと、引き渡しを終えたと思しきE46B3が停まっていました。

「いやー残念です。置く場所さえあるのなら、是非持っていてほしいんですけどね……」
ショップの営業さんの言葉です。一足先に着いていた新山さんから売却に至る事情は聞いていたようで、「彼女との同棲の為、車に掛けるコストを抑える必要がある」という話には、祝いを述べつつも残念がっていました。
なお、この一年後、BMW ("駆け抜ける喜び"と読む)の幻影に取り憑かれた新山さんは、当の彼女さんを引き連れて320d(F30)の商談に現れるのですが、それは後半で簡単に記します。
「次の車は決まってらっしゃる?」
「候補は一応。このあと、F30に乗っけてもらって実物を見に行こうかと」
「日産です?」
「日産です」
ドバイのバイヤーに買い付けられるというE46に涙の別れを告げ、近所のコンビニでコーヒーを補給。販売店に来店予約の電話を入れる前に、新山さんに次の車について伺います。
「ーー日産に戻るのはマストだったんですか?」
「どうせならね。まず、最初に入れた縛りは、『3年保証が組めて、その間においては総合的な維持費が安い車』。他メーカーも見ちゃいたけど、常日頃から見ていて、一番情報持ってるのが日産だったし。ーーあとは、シルビアのときにお世話になってて、今も任意保険の代理店で付き合いのある日産の営業さんに、もう一度車を見てもらいたかったっていうのもある。50歳超えられてるし、定年で退職するって言ってたから」
いい話でサラッと流されていましたが、新山さんは日産の認定中古車サイトを日がな一日眺める癖がありまして、日産車については、相場と出ダマの情報が大体頭に入っているようです。
「候補、ティアナだっけ? ーーサファリは燃費の問題で泣く泣く外したとして、あとはセダンがいいのは分かったけど、フーガやスカイラインは考えなかったの?」


フーガハイブリッドとスカイラインハイブリッドは、実際に日産レンタカーで借りて乗り比べまでしていたので、買い換えるならこのどちらかだろうと思っていました。
「あ、あとグロリアか。悪そうな顔が好きって言ってたけど」
「グロリアは年式が古いので今回除外。好きだけどね。比較的高年式の日産セダンなら、ティアナかフーガかスカイラインになって、フーガとスカイラインだと、今回メインのタマはハイブリッドになるんだけど……。ハイブリッドはね、トランク狭いんだよ」

トランクとリアシートの間に、通常バッテリーとハイブリッド駆動用のバッテリーが鎮座している。この為、トランクスルー機能がない上に、ある意味、下手なオープンカーよりもトランクスペースが狭いです。
「せっかく買った折り畳み自転車が乗らないんだよね。ーーあとは、スカイラインは好きなんだけど、37型は内装があんまり好きじゃなくて……。イマイチ直感的に操作できなかったから、今回は見送りかな。フーガは、まあ、前乗ったしね。じゃあ、あとはもうティアナだなと」
盛大なフラグとはこのとき知る由もないので、話を進めます。
「ティアナはね、いいよ。FFだからトランク広いし、FRより雪道強いし。ゆったり乗れてそこそこデカい、アメリカンセダン的な立ち位置が嫌いじゃないんです。今回目的が目的だから、変にスポーティーに振って中途半端になるよりは、思いっきりコンフォートに寄るのもいいかなと」


※日産ティアナL33型。リアがカクカクしていてVAB型WRX味があります
「なんでティアナかと思ってたけど、なるほどね。こう聞くと納得できるような……。エンジンはV6?」
「いや、最終型を狙って、安心の直4NA。車重も1,400kg台だから十分だよ」
話しているうちに日産中古車サイトからショップページに辿り着き、発信。2コールほどで繋がり、「サイト掲載中のティアナを購入前提で見に行きたい」旨を述べたところ、「少々お待ちください〜」という声がスマホから漏れ聞こえて、しばらく。
ここが運命の分かれ道でした。
「ーー申し訳ございません、あいにくそちらのティアナ、つい先程契約済みとなってしまいまして……」
天を仰ぎ、丁寧に辞して、電話を切る新山さん。数秒の沈黙後、一言。
「(フーガに)切り替えていく」
◇
伊達に日産中古車サイトを日がな一日見ていません。心のどこかで「これがダメなら次はこれ、その次はこれ」と選定が済んでいたものと思われます。今度ばかりは決断が速い。
小一時間のドライブを経て、店舗着。Y51型前期、フーガハイブリッドの現物を確認。
私が車で寝ていた間に、つつがなく契約締結まで完了し、帰路に着く形と相成りました。
帰路から彼女さんに報告を入れる新山さんに尋ねます。
「……大丈夫? ティアナ(173ps)と比べると、馬力ベースで、倍以上の超ハイパワー車になってるけど」
「大丈夫だと思うよ。そもそも目的は維持費とランニングコストだから。『ハイブリッド車になったよ』って送って。ーーあ、今返ってきた。『お疲れ様』だって」
なお、前述のトランク問題ですが、折り畳み自転車の方が売却された模様です。人生の優先順位がブレていない。

◇
「というわけで、2代目のフーガです。前回がY51後期型の370GT Type-Sの純エンジン、泣く子も黙る3.7L NAモデル。今回はY51前期型、3.5Lにモーターを合わせたハイブリッドモデル。大分違うと思うけど、所感は」
「まず、外装は前期の方が好きです。リアの丸々しさがいい」

「こだわりポイントは?」
「字光式ナンバー。セダン足るもの、ナンバーを光らせなければならない」

※個人の感想です。身内唯一の字光式ナンバー。
「先にネガポイントお願いします」
「やっぱりトランクは狭いよね。ーーあとは、雪道かな。微妙なアクセルコントロールがしにかった。途中でエンジンが起動したりするせいもあるけど、アクセルレスポンス自体が、まあリニアではないよね。制御が入ってくれるから、『雪道で安心に』は走れるけど、『雪道で違和感なく』走りたい人には向かないかもしれない」
かなりシビアな見方だと思います。少なくとも普通に乗る分には、踏めばスーッと進みます。
そもそもこの男、アルピナB3にさえ、「LSDが入ってないので雪道が気持ち悪い」と述べていたくらいです。雪道に対して何を求めているのかが、車音痴の私からするとイマイチわかりません。
「失礼な。別に滑らせたいわけでもないし、飛ばしたいわけでもなくてさ。ただ、ステアリングの反応も、アクセルペダルに対する出力の反応も、リニアで自然であってほしいだけだよ。その辺り感じやすいのが雪道なだけ……いや、あと、景色も綺麗だし、環境的にもエクストリームだし……雪道はやっぱり、気持ち良く走りたいよね」


冬。朝起きて、ふらりと車を走らせれば非日常に突撃できるのが雪道です。気持ちはわからなくもありません。私もいつかはアルピナにスタッドレスを、と思うのですが、いかんせん値段が……。

「フーガに関してはさ、おれから助手席の快適さについて語らせてほしいんだよね。安楽過ぎるんだよこの車。ーーまず、助手席が広い。F30と全幅が3cmしか変わらないとは思えない。あとエアコン。日産が世界に誇るフォレストエアコン機能。このちょうど良い風量とそよぎ感。空調屋としては喜びを感じざるを得ない。空調の四要素。気流を適切にコ」
「これね。ただ日産、これ以降フォレストエアコン使ってないんだよね。やっぱり国際的には受けなかったのかな……」
フォレストエアコン機能、前のフーガの時から強く感じていた快適ポイントだったので、残念です。ちなみにトヨタ・クラウンは、車のエアコンとしては珍しく、基本的にルーバーが稼働します。エアコンの気流調整は国産車の強みなのかもしれない。
「次にオットマン。片道200〜300kmくらいの助手席のときに使わせてもらってるけど、これ大分楽だよね」
「ね。ただ、梁井以外あんま使わないんだよねこの機能」
「彼女さんとかインテグラ先輩は?」
「インテさんは子育てで忙しいみたいで最近遊んでない。海野さんは、使ってくれるときは寝るときくらいかな……。ちょっと持ち上げて、膝をサポートする使い方、結構便利だと思うんだけどね」
新山さん、彼女相手でも容赦なく車中泊レベルのツーリングに誘うようで、『夜間に出て車中泊で仮眠し喜多方で朝ラーメンを食べて雪道走って帰る』というエクストリームなドライブにまで連れ回していると聞きます。海野さん曰く、「付き合う前と後の年間移動距離を計算して比較出来たら面白いことになるかもしれない」とのこと。正直、付き合う貴女も貴女だと思う。
「内装がベージュなのも、周りのメンツの中では初めてかな。いいよね、開放感あって」
「そこは結構気に入ってる。気持ちも明るくなるよね」

「助手席の所感として最後。パワーとATのスムーズさ、これがとにかく良いんですよ。ーーこれ、今回の記事で一番主張したいんだけど、バカトルクのAT車って、やっぱ助手席楽だよ。心地良いし、疲れない」
正直に言うと、フーガ→サファリと経た上でのE46B3、6速ミッションの助手席は、結構疲れるものがありました。
シルビア・サンバー以来のMT車の助手席で、当時は意識していませんでしたが、ギアチェンジ動作へ視覚的に意識が持っていかれます。加速の際も、手動変速だとそこそこ回転も上がる為、音も賑やかです。
一方フーガハイブリッドは、踏んだ時のヌルーっとした加速感、トルコンATのトン、という変速、基本静かなのに、加速時に思い出したように起動してくれるエンジンの音と程よい振動。
モーターとエンジンの間のクラッチについても、変にスムーズ過ぎないから、『エンジンが起きたな』と感じられてこれはこれで楽しいです。
「音は? 個人的にV6の音と振動、程よく存在感があって好きなんだけど」
「直6のスムーズ過ぎる感じじゃなくて、いい意味でブツブツした感じはあるよね。前のフーガに載ってたVQ37HRと比べると、ちょっと高域が足りないかな? 踏み込んだ時も、帯域がかなり下に寄ってる気がする」
ブロロロロロゴオオオオオ…という感じです。VQ37の方は、ブロログオオオオオン、と高回転でもう少し上が響いていた気がします。
「踏み込んだときの気持ちよさはやっぱり370GTに譲るよね。まあ、こっちはハイブリッドの面白さがあるから、トレードオフかな」
総じて、ホスピタリティー溢れる、日本の高級車らしい名車だと思います。
刺激を求めてしまうと物足りなさを感じるかもしれませんが、総合力が高い。ちょっとだけ運転もさせてもらいましたが、私は非常に好きですこの車。
◇
と、故障続きのアルピナから補償付きのフーガに乗り換え、爆弾を抱える日々からは解放されたものの、新山さんは未だに、サファリの呪縛とBMWの幻影に身悶える日々が続いているようです。
私の知る限り、購入一年以内のこの冬に、新山さんが取った見積もりは、何と4つ。Y61型サファリ・デフロック付き寒冷地仕様8ナンバー(シンク付き)、ジムニーシエラ、E93型335iカブリオレ、F30型320dです。
「一体何なのこのラインナップ」
「サファリは出物が現れてしまったから。ジムニーは、サファリがダメだったので当て馬として見に行ったけど……そこそこデカくて乗り心地のいい車にスッカリ慣らされちゃった感があって、ちょっと揺れ方がキツかったな。ーーこの2台は四駆枠で、BMW2台は、アルピナの幻影。駆け抜ける喜びは伊達じゃなかった」
テレキャスターはレスポールの残像みたいなことを言っています。
何となくわかる気はしますが、せっかくなのでアルピナやBMWの何が琴線に触れたのか、改めて詳しく聞いてみると、
「そうだねえ。『駆け抜ける喜び』を自分の言葉に置き換えるなら、『ステアリングやアクセルペダルに対する、リニアで、自然な反応』かな。これが気持ちいいから、どんどん走りたくなる。あとは、ボディーの剛性感が強い。じゃあそれの感触が、それぞれどこから来てるのか、個別に言及出来るわけじゃないんだけど……、代車で乗ったノーマルのBMWからさえ感じたから、国ごとの、メーカーごとの乗り味の違いって、やっぱり面白いよね。車ってしみじみ、総合的な機械なんだなあと思ったよ」
「……外車は消耗品の交換頻度と値段が高いから当面いいって言ってなかったっけ」
喉元過ぎれば何とやらです。なお、冬に気持ち良く走れる四駆を志向していたにも関わらずこの2台のチョイスは、「LSDさえ付ければ冬の雪道も気持ち良く走れるんじゃないか」とのことです。
なお、前述のサファリに関してはもはや偶像崇拝の域に達しており、新山家のリビングには、ヤフオフでゲットしたサファリのカタログが飾られているそうです。
ーーもっとも、この時期愛車の迷走は冬季の季節病みたいなもので、雪道を走れなくなるほど暖かくなれば、自然と落ち着いてくるようです。
最初の方のこそ駆け抜ける喜びの幻影に苦しめられていたようですが、海野さんを始めとする助手席勢のPRと、総合的なフーガの素性の良さ、春の訪れによって、無理な買い換え欲求は大分落ち着いてきたように思われます。
「最後に、次の車の候補は?」
「資金力、住んでる場所、使用用途を考えると、やっぱり国産のセダンの四駆になる。そうなると、マジェスタの四駆か、ーーフーガ370GTの四駆とかかな」
ありがとうございました。