ー ORDINARY ー

※ 登場人物はすべてフィクションです。車と楽器とフィクションに塗れた会社員の日常を、のんべんだらりと書き綴っています。

梁井・新山、アルピナを買う。その3。

購入記その3です。

 

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※新潟にキャンプに行ったB3の図。後で知ったのですがこのとき既に電動ファンが破損しています


「いつの間にかマニュアルのB3が出てるな」と思ってはいました。


さらに言えば、それを見て「ツーリング主体ならMよりアルピナの方が合ってるかもね」みたいな話も、確かにした記憶があります。


しかしながら、こうも「ミイラ取りがミイラになる」の典型みたいな車の買い方を目にすることは滅多にないと思います。私を焚き付けて見に行った車屋で、ある日突然、新山がBMW ALPINA B3 E46型のマニュアルモデルを買っていました。

 

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※衝撃のツイート


「正確には取り置いてもらってから1週間後に契約したんだけど、それはあくまで金の工面と、彼女に話を通す為だけの時間であって、買うこと自体には何の迷いもなかったね。M3より100万円安いアルピナのマニュアルが、専門ショップで買える。迷う理由がなかった」


大型二輪の免許交付を受けた帰り道のことだったそうです。


「バイク売ろうかな」とボヤキながらも何故か「取れるうちに取っておこうと思って」と突然大型教習に通い出し、いつの間にか合格を果たしていて、この日に免許センターへ交付を受けに行くとまでは聞いていました。その帰路と思しき時間帯、私は新山の上記ツイートを発見。


「しばらく大型バイクを買うつもりはない」と話していたものの「ああ、やっぱりバイク買ったんだな」と思いリプライで尋ねてみたら、何とバイクじゃなくて車でした。


「サファリはどうした!」とか「M3にスマホ忘れてったのはやっぱりわざとだったんじゃ!」とか、いろいろと思うことはありましたが、最初に浮かんだのは「先を越された!」という敗北感でした。


別に車なんて好きなときに好きなもんを買えばいいですし、誰かが買ったのに触発されて買うもんでもないと思いますが、少なくとも乗り換えを逡巡していた私に、結構な衝撃を与えたことは事実です。


改めて店の在庫を見てみたところ、アルピナが何と3台置いてあります(新山の買ったE46を含めると4台。驚異的です)。世代別に選べる状況。しかも、ISの新車を買うより安い。


ついでに私は思い出しました。そういえば今年昇格して、まだ自分には何も買ってないんだよな、と。


これだけ何年も「GT性能の高い車に乗り換えてみたい」という欲求を抱き続け、コペンでは北の端から南の端まで無事走破して、乗っていてしみじみ楽しい車ではあるけど、そろそろ次に行ってもいいんじゃないか?


目の前にセダンの極致たるアルピナが3台、買える値段でぶら下がっています。こんな状態がこれから何度ある? そもそもおまえ昔から「BMWの3が好き」「F30のデザインは至高」「アルピナならなおいい」とか言ってなかったか?


私は腹を括ることにしました。

買っちまおう、アルピナ



あとはもうどれを買うかです。お店には何と、E39、E90、F30、3台のアルピナが買える状態で置いてあります。


まずは、4代目5シリーズをベースにしたE39型。全長のデカさと古いATが理由で見送りましたが、90年代に生まれた車、やっぱり好きです。憧れがあります。


BMW ALPINA B10 3.3 (E39型 5AT)

 

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エンジン: S52B32 Turned by ALPINA 3,299cc(E36型M3北米仕様搭載エンジンのチューンド)

ボディサイズ:全長 4,775 × 全幅 1,800 × 全高 1,435 mm

ホイールベース: 2,830mm

トレッド:前/後 1,510/1,520mm

タイヤサイズ:235/40R18 / 265/35R18

車重:1,640kg

最高出力:285ps(209kW)/6,200rpm

最大トルク:34.2kg-m(335N・m)/4,500rpm


これ、新山のE46型B3 3.3と同じエンジン積んでるんですね。北米仕様E36型M3専用の鋳鉄ブロックエンジン。当時のアルピナとしては余程使いやすかったんでしょうか。


ちなみにこのしばらく後、1世代前の5シリーズであるE34型525iが在庫で現れ、この型のエクステリアが激烈に好きな私は大いにぶちアガった記憶があります。

 

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幼い頃、近所に住んでた幼馴染の家の車が黒いE34型525iで、「車っていうのはこんなにも存在感があるものなのか」と幼心に憧憬の念で見ていました。何度か乗っけてもらったような気もします。良い思い出です。もしアルピナの前にこれが出ていたら、憧れ全振りで買っていたかもしれません。


お次はE90型のB3S。


BMW ALPINA B3S 3333 Limited (E90型 6AT)

 

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エンジン:N54B30 Turned by Alpina 直列6気筒DOHCツインターボ(同型335iのチューンド)

ボディサイズ:全長 4,545 × 全幅 1,815 × 全高 1,440 mm

ホイールベース: 2,760mm

トレッド:前/後 1,505/1,510mm

タイヤサイズ:245/35R19 / 265/35R19

車重:1,600kg

最高出力:410ps(302kW)/6,000rpm

最大トルク:55.1kg-m(540N・m)/4,500rpm


ただでさえ台数が少ないB3の中で、後期ハイパフォーマンス版のS。しかもこいつは30台しか作られていないというとんでもない希少車です。


走行距離は5万キロちょい。トラブルが出始める距離にはもう少し余裕があります。


これは見積もり出してもらうところまで行きました。最初に見たのがE92型M3だったこともあって、「アルピナに行こう」と思ってから、まず目を付けたのはこいつです。


予算に対して余裕もあるし、腹を括ったタイミングで珍しいのが出ているのも何かの縁だと思えます。ベスモで絶賛されていたE90世代なら心中も本望かもしれんと、半ばこいつに決めかけていました。


が。


しかしです。


「次の車は見た目で決めてやる」と重ね重ねボヤいていたことを、ここでふと思い出します。


これがE92型、クーペタイプだったらそのまま決めていたかもしれません。この世代はクーペとセダンでリアテールランプのデザインが大きく違いまして、クーペタイプの伸びやかなリアデザインがいいなとM3を見て感じていた身としては、セダンのリアを見て「ちょっと寸詰りだな」と感じてはいました。


内装がアルピナ特有のウッドパネルでないことも「珍しいなあ」と思って惹かれてはいましたが、いざ「車を乗り換える」と心に決めてから、俗に言うマリッジブルー的な、「本当にこれでいいのか?」という自問が生まれてまいりました。


クリス・バングルがチーフを務める体制での永島譲二氏デザインによるE90。大胆な変革期のデザインは偉大だとは思いますが、縦のラインが強調されたフロントフェイスのデザインは、自分が好みかと言われればそれは一考の余地があります。正確にいうと、E61系統のぐいっと目元が吊り上がったデザインはちょっと苦手で、ベスモで元気よく走り回る姿を見ているうちに違和感がなくなってきた、というくらいです。


最後に、その隣にひっそりと停まっていたF30型のB3。

 

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値段が高かったので無意識のうちに見ないようにしていましたが……、一度意識してしまってからはもうダメです。これしか目に入らなくなりました。


デザインが美し過ぎます。


F30型のデザインについては別途ちゃんと調べてまとめたいとまで思っているのですが、 ーーチーフデザイナーがクリス・バングルからエイドリアン・ファン・ホーイドンクに変わった後の車で、クリス・バングルのデザイン革新が浸透し、馴染みを得た後、その方向性を踏まえた上で、さらに変化させてきたところが特徴だと思います。具体的には本の受け売りですが、『縦のラインより、横のラインを強調させて低さと幅感を出す』だそうです。


買ってからバシャバシャ写真を撮ったり缶コーヒー飲みながら駐車場で眺め狂ったり、新山のE46と見比べたりすると、しみじみその特徴が見て取れます。下記が好きなポイントです。


・ヘッドライト・キドニーグリルの位置がE90どころかE46と比べても低いことによる、低く構えた緊張感のあるスタイリング

 

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・ヘッドライト内側のアイラインメイクのような絞り方と、キドニーグリルへの接続による目力の強さと艶っぽさ

 

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・リアテールランプのワイドさによる、どっしりと構えた踏ん張りの効いた重厚感

 

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・レイヤーを積み重ねたようなインテリアデザインと、ナビがフードを被ったようなE90のディスプレイ配置に比べて立ち上げ式となったことにのる運転席目線での解放感


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逆に「微妙だなあ」と思う部分もないわけではなくて、下記の点は少しばかり気になるところです。


・ボンネットカットの唐突さ(先代と先先代はキドニーグリルの上端あるいは下端がボンネット開口部になっており無駄なラインがない)

 

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・サイドから見た時のフロントフェイスの凹凸のないぶった切り感

 

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・デザインで低く見せても絶対的な全高による車のデカさ

 

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が、購入検討時にそんなことは全く気にもしておらず、『はちゃめちゃに美人かつ超好みのキャバ嬢が隣に着いてくれたときのサラリーマン』のような状態に陥っていました。目を見ることすら出来ません。


値段は予算内にギリギリ、本当にギリギリ上限で収まっています。


ウッド調の内装も、初めは「おっさんぽいんじゃないか」と思って敬遠気味でしたが、フーガとサファリで見慣れてきたこと、F30のインテリアデザインがそもそも好みであること、「ぽいも何も自分はおっさんではないか」と自覚したこと等から、むしろいいんじゃないかと思い始めてきました。ちなみに、内装の木材は楡の木だそうです。


スペック数値と快適装備についても、E90後期B3SとF30前期B3では差がほとんどありません。馬力も同じなくらいです。


違いは年式とデザイン、そしてエンジンの細かい仕様と言ったところです。


エンジンはどちらも直列6気筒ツインターボで一世代違いですが、E90に載るN54エンジンは、直噴搭載の代わりにバルブトロニックを非搭載。F30に載るN55は、直噴とバルブトロニック、双方の機構を搭載しています。これは買った後に知ったので、己のアクセル操作で制御しているものがスロットルバルブではない、と分かった時は結構な衝撃でした。


M235iのエントリでも記載した通り、N55は効率化の為に気筒モジュール化される前の最後の6気筒エンジンです。エンジン屋であるBMWとしても、気合が入っていたんじゃないでしょうか。ついでにいうと、ノーマルのN55エンジンはシングルターボ(ツインスクロール)ですが、アルピナはこいつをN54同様ツインターボ化しています。


なんていうか、『やれることを全部やった感』がとてもいいです。


ミッション段数もF30から8速になりました。ATの段数が6速を超えると通常走行がやたら低回転になるので寂しくはありますが、数字はデカい方が強いと相場が決まっているので、これはこれで嬉しくなります。


加えて、ナビシステムであるiDriveの使いやすさはこの世代から格段に向上しています。図らずともこれは、納車直後にぶっ壊れたB3の代車としてやってきた、E61型5シリーズで痛感することになります。使いにくいというか、反応が遅かった。


 

あれこれと列挙しましたが、突き詰めますと買った理由は「この車となら心中できる」です。美し過ぎます。


なお、試乗しないで買うことは、ギターで考えが変わり、抵抗がなくなりました。探し狂っていたJames Tyler USAのClassicを買ったとき、試奏は一応しましたが、好みだろうが好みじゃなかろうがどのみち買うつもりでいました。実際好みではなかったんですけど、そんなものは弾いてりゃ慣れますし、今ではメインギターです。ストラトストラトの形をしていればストラトの音がします。


加えてこの車はアルピナです。定期メンテさえされてりゃあ悪かろうはずがありません。


営業さんからの「F30は丈夫だからそう壊れませんよ!弱点はチャージパイプくらいだと思います!」という言葉も最後の後押しになりました。なおこの言葉は盛大なフラグと化して後日私に襲いかかってきます。


そんなわけで、私はアルピナを買いました。


納車されてから爆弾が炸裂したおかげで30万円近い修理費が発生しましたし、エアコン作動時に変な音がする症状は未だに直っちゃいませんが、買ったことは何も後悔しておりません。売れっ子のキャバ嬢にハマったと思うことにしています。走行性能に関しては折り紙付きで、ダラダラ走った時の楽しさ、長距離巡航能力、エクステリア・インテリアの美しさ、サンルーフオープン時の心地よさ、求めていたすべてを兼ね備えています。


背筋が伸びる車でもあるので、いい意味でちゃんとお金をかけながら、楽しく乗っていきたいと思います。



オチ代わりに、「M3を見に行った」と呟いた後日、友人のRX-8乗りが「何故か今現行M3が手元にありまして、横乗りでよければいかがです?」と連絡をくれ、G80型M3に乗っけてもらいました。代車だったそうです。代車でM3って。

 

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「M3も踏み込まなければ普通の車」と分かったことが、近年モデルのバカトルクセダンを買う後押しになってくれました。思えばこれに比べても、B3は踏み込んだ時のトルクの立ち上がりが穏やかでした。アクセル開度のセッティングなんだろうか。


次回以降は地獄の故障対応とそれを平気で上回ってくるB3の心地良さについて書きたいと思います。


なお、これを書いていた途中、新山のB3のタコメーターが当然不動に陥り(針が1,000rpmを指したまま動かなくなった)、翌日しれっと直るという怪現象を経験しました。自前の(!)コンピュータ診断の結果、「回転数はちゃんと拾っているようなので多分メーターを駆動させるモーターの故障とかだろう」と話していました。つくづく業の深い車です。