購入記その2です。
※写真は「今何でもいいから一台選べ」と言われたら間違いなく手を伸ばすレクサスIS500
仕事で大事なことは「最初の一手にはさっさと着手すること」で、それが資料作成ならファイルを立ち上げて名前をつけて保存する、調べものならググるか関連文献を漁る、ヤフオクへの出品が億劫なら、写真を取ってアップロードまで済ませる。ーーエンジン始動と同じで、初爆さえ済ませれば、アイドリングでスムーズに回ってくれるものです。
車の買い替えにおいては、「気になる車をとりあえず見に行く」が最初の一手に当たると思われます。
逆に言ってしまえば、見に行けばそれは事態が本格的に動き出すことを意味し、M3の実車を拝んだことで私の購入意欲はブーストされ、私は腹を括って、コペンの後継車について真剣に絞り込みをかけ始めました。
※すべてを超越する車コルベット。写真はC5。この車に乗るにはまだ"漢気"が足りない
ただ好きな車を挙げているだけでは決めようがないので、次に買う車には下記の要件を課すことにします。
①コペンと被るところがなく、②ライフステージが変わっても手放さずに乗り続けることが可能で、③ライフステージが変わらなくても死ぬまで乗り続けそのまま心中しても構わないと思える車。これです。
具体的にいうと、大トルクで、4シーターで、オートマチックで、『ハチャメチャに浪漫があってテンションがぶち上がる車』です。
ロードスター、ボクスター、エリーゼなどのライトウェイト系オープンカーは①②が該当しません。それならコペンに乗り続けりゃいいです。
漢の浪漫コルベットは、③は申し分ありませんが②がやや厳しいものがあります。
コルベットへの憧れがもうちょっとだけ強ければ、③の憧れが②をかき消すことも出来たかもしれませんが、……コペンでの9年間で「後部座席があればどれだけ楽なんだろう」という妄執に囚われ続けたことで、②を重視した方が車への満足度と、何より買い換えるに足る動機になり得るだろうと判断しました。如何に2シーターの方が趣味性が高くとも、4シーターでもおもしろい車なんざ世の中にたくさんあります。
③に関してはあくまで心意気の話で、『物理的に維持可能かどうか』はあまり考えておらず、その意味で、電子制御の入りまくった近年モデルが大半を占めました。本当に一台を維持し続けて死ぬまで乗るなら、構造がシンプルで、メカの維持だけを考えればいいクラシックモデルに限ると思います。
ちなみにM3は上記条件をほぼ兼ね備えてはいたものの、「もっかい見に行こうかな…」と思ったときにはすでにSOLDになっていました。縁がなかったものと思われます。
①②③を勘案した結果、まず俎上に上がってきた車はS5カブリオレです。
エンジン: 2,994cc V型6気筒DOHC スーパーチャージャー
ボディサイズ:全長 4,655 × 全幅 1,855 × 全高 1,375 mm
ホイールベース: 2,750mm
トレッド:前/後 1,580/1,570mm
タイヤサイズ:255/35R19
車重:1,990kg
最高出力:333ps(245kW)/5,500〜6,500rpm
最大トルク:44.9kg-m(440N・m)/2,900〜5,300rpm
まだオープンへの執着が残っていた頃と思われます。
宇宙船を思わせる、シンプルで美しいリアのライン。2012年からマイナーチェンジで現代的になったフロントフェイス……。初代後期の8T型S5カブリオレ。
アウディの良さは安藤のA3で身に染みてわかっていたので、当時の最有力候補でした。シックでありながら『良いものに触れている』感に溢れる内外装は上品で、4シーターオープンはずんぐりとしたフォルムになりがちなのにも関わらず、アウディのデザインはボディーラインに曲面が多いせいか、カブリオレにしても独特の色気があります。
すごくいいと思ってはいたものの、③の心中性は、やや足りないように思えました。何より『4シーターオープン』という良いとこ取りなパッケージングに対して、「そんな安楽なものを手にしてしまっていいのか…?」という逆張り精神が働きます。正解過ぎる車です。ついでに「3.0Lスーパーチャージャーに2.0tの車重はちょっと重いよな」という考えから、
「4シーターでも、もう少しバカバカしいやつがいい」
という指向性が生まれてきました。
ふらっと行ける近場に出物がなかったのも見送った理由です。この辺り、本当に出会いとタイミングだと思います。
◇
次に思い出したのが初代IS-Fです。これは実車を見に行きました。
5.0L NAのV8エンジンを、ボンネット下に無理やり押し込んだセダン。M3より凶悪さは控えめで、排気量はこっちのが上です。その出自と浪漫は前述の通り。エクステリアもシンプルで好きです。
これはかなりいいんじゃないかと思っていましたが、IS-Fの在庫を複数台持っていた地元の中古屋さんに突撃したところ、営業対応があまりにもアレだった為、私はこれをスルー。ショップのGoogleレビューに「謎のにーちゃんにねちねちと嫌味を言われて興奮できる人ならオススメかもしれません!」と書き殴りたくなる気持ちを押さえ込み、一旦引くことにしました。
気長に他店のIS-Fの出物を待つか、もしくはフットワークの良さそうな4シーターということで、「BMW M235iの認定中古でサンルーフ付きのやつが出てきたら見に行こうか」などと考えていたところで、ふと、現行ISのマイナーチェンジ後のレビューを発見しました。
2020年末にビッグマイナーチェンジを果たしたIS300、どのレビューでもはちゃめちゃに褒め倒されています。
◯レクサス IS300
ボディサイズ:全長 4,710 × 全幅 1,840 × 全高 1,435 mm
ホイールベース: 2,800mm
トレッド:前/後 1,580/1,570mm
タイヤサイズ:235/40R19
車重:1,650kg
最高出力:245ps(180kW)/5,200〜5,800rpm
最大トルク:35.7kg-m(350N・m)/1,650〜4,400rpm
『プラットフォームとパワートレインを変更していないのでフルモデルチェンジではない』としながら、このタイミングで『3シリーズやCクラスを超えるフィーリング』とまで称された、国産のスポーツセダン。
売れ筋のハイブリッドモデルである300hより、エントリーモデルで純ガソリンエンジンの300を絶賛している記事が多いことを見ると、当然露出を高める為に広告宣伝を打ちまくっているであろうものの、ストレートに走行性能の出来が良かったものと思えます。
ボディーサイズは3シリーズとほぼ同じです。F30型よりはやや大きい程度、G20型とはほぼ同等。元々ISは3シリーズよりコンパクトだと思っていたのですが、このマイナーチェンジで少し大きくなったようです。にも関わらず、リアのオーバーハングが短いせいか、ワイドながらコンパクトに詰まった、流麗なデザインに感じます。率直に好きです。
しかも国産です。世代落ちのドイツ車よりは丈夫で、部品代も安いでしょう。今でもこの点においてのみ、国産にしときゃよかったと思わないでもありません。
天下のトヨタが、ガソリン車の黄昏時代、徹底的に磨き上げて最後に叩き出してきた、Dセグメントのスポーツセダン。
スペックに派手さはありませんが、いいです。浪漫があります。
挙句、レクサスは2022年8月、5.0L V8 NAエンジンを積んだIS500の国内販売を正式に発表しました。
◯レクサスIS500
エンジン: 2UR-GSE型 4,968cc V8 DOHC
ボディサイズ:全長 4,760 × 全幅 1,840 × 全高 1,435 mm
ホイールベース: 2,800mm
トレッド:前/後 1,580/1,570mm
タイヤサイズ:235/40R19 265/35R19
車重:1,720kg
最高出力:481ps(354kW)/7,100rpm
最大トルク:54.6kg-m(535N・m)/4,800rpm
実質IS-Fの復活です。
2021年12月14日、バッテリーEV戦略についての発表会で、新モデルのEV16車重をデカデカと発表したトヨタ・レクサスが、V8 5.0L NAとかいう、極めてトラッドなエンジンをぶち込んだスーパースポーツセダンを、ここに来て日本で発売する。何ともファンキーなアティチュード。
おそらく新型ISの評価の高さが国内で、特に自動車ジャーナリスト経由で車好きの購入検討者の間で広まるのを、じっくり待ってからの500導入を狙っていたんじゃないかと思います。最近のトヨタは本当にこういう演出が上手いというか、痛快です。
トヨタの技術を結集したガソリンエンジン・スポーツセダンの極地としてのISがここに来て出た。
これは買う意味があるんじゃないだろうか。
1年くらいお金を貯めてIS300を、または、とち狂う覚悟ができたらIS500を、心中するつもりで買って死ぬまで乗る。
クラシックなコルベットを死ぬ気で直しながら乗ったり、エアコンレスの初代エリーゼを春秋の晴れの日だけ乗ったり、ハードコアな車人生に飛び込むのもよいですが、新車で買ったと思しきクラウンに乗り続ける老夫婦のような、アティチュードが好みの現行車を買って乗り続ける楽しみ方もよいのではないだろうか。
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などとつらつら考えながら過ごしていた7月。私は衝撃のツイートを目にしました。
続きます。