ー ORDINARY ー

※ 登場人物はすべてフィクションです。車と楽器とフィクションに塗れた会社員の日常を、のんべんだらりと書き綴っています。

次に乗りたい車を物色する(BMW M235i)。

SLK55 AMGを買って以来、すっかりV8を讃えるマッドマックスの民になってしまった我が友人、ぽりぽりに触発され、大排気量FR車に目が行くようになってしばらく。


現実的な価格帯で手に入れられるハイパワー中古車を物色したところ、IS-Fに続いて、2台目に出て来たのはこいつです。


BMW M235i (6MT)

 

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エンジン: N55B30A型  2,979cc 直列6気筒DOHC 24バルブターボ M Performance

ボディサイズ:全長 4,470 × 全幅 1,775 × 全高 1,410 mm

ホイールベース:2,690mm

トレッド:前/後 1.510/1.535mm

タイヤサイズ:(前)225/40R18/(後)245/35R18

車重:1,530kg

最高出力:326ps(240kW)/5,800rpm

最大トルク:45.9kg-m(450N・m)/1,300〜4,500rpm

変速比:(1~6/後退)4.110/2.315/1.542/1.179/1.000/0.846/3.727

最終減速比:3.077

最小回転半径5.1m


直列6気筒エンジンにターボ付き。コンパクトな4シータークーペです。


日本発売は2014年。ボクスターやらケイマンと同価格帯の、それもマニュアルモデルの新車がBMWから出た、すごいすごいと色めきだったものです。


2021年現在、マニュアルモデルの中古価格は、走行距離5.0万km超の個体でギリギリ200万円台後半。E46型M3の中古を買うよりやや安いくらいです。スペックと年式を考えると恐ろしい程お買い得だと思います。



スペックを読んだ限りだと、サイズ感を含めて、特性がどことなくアウディA3に似ています。パワーは倍以上違いますが…。


まず、トルクバンドが広いです。


ダウンサイジングターボの傑作技術、TFSIエンジンを積むA3より、100rpm低く、500rpm高く、トルクバンドが続きます。


一方、馬力は3.0Lターボのわりに高いわけではないので、後に発売されるM2との差別化の為か、どちらかというとトルク寄りのセッティングをしているように見えます(M2は同じ排気量ターボで最高出力が410ps / 6250rpm)。


コンパクトセダンのわりに後席も広く、170cmの大人が普通に乗れるとのこと。見た目もM2やらM3やらと比べてオーバーフェンダーもしておらず、威圧感もないのです。

 

全体的に、普段使いに便利な性格を残そうとしている印象を感じます。

 

 

こう書くと単に「そこそこパワーがあってマニュアルがある使いやすい4シータークーペ」なんですが、今コペンからの入れ替えで車を買うなら、そんな現実的な理由でなく、すべてをぶっちぎるファンキーな理由・浪漫が必要です。

 

IS-Fにおいてそれは、『35GT-Rと同年、2007年に発売された、国産スポーツカー暗黒時代に一石を投じる最初の一台』『それも280馬力規制を遥かにぶっちぎる、5.5L423馬力の超ハイパワー車』という点だと、先のエントリで書きました。


では、M235iの浪漫は何か。


それは『直列6気筒とターボという、BMWの伝統二つを組み合わせた、モジュラーエンジン化する前の最後のエンジン』という点だと思います。


BMWといえばシルキーシックスと呼ばれる直列6気筒エンジンが有名で、その滑らかに廻る感触は、当然にNA故でありましたが、実はターボを市場に流行らせた実績があります。

 

どちらも1970年代のことです。


それから40年ちょっと経った2014年に出たM235iは、ストレートシックスとターボという、エンジン屋であるBMWの歴史が結実したモデルであります。そいつに日本でもマニュアルを設定して出してきた、ということは、メーカーとしても相当な気合をぶち込んできたモデルではないでしょうか。

 

その辺りをちゃんと調べようとしてみたところ、ちょっとした論文級の文章量になってしまったので、以降はお手隙の際にご笑覧ください。



まずシルキーシックスという呼称について。


こいつは1976年、当時のフラッグシップとして発売された初代6シリーズ搭載の直列6気筒SOHCエンジン、M30B32型に対する賞賛が始まり、とする説が有力です。排気量のデカい、通称ビッグシックス。この吹け上がりを当時の欧州ジャーナリストが「絹のようだ」と呼称したのが由来とのことです。


M30型エンジン自体は1968年の2500及び2800シリーズへの搭載が最初であり、そこからシルキーシックスの呼称が始まったとの説もあるようで、今となっては明確な初出はどうも確認できないようです。


その後、1990年に直列6気筒DOHCのM50型エンジンが登場。こちらは排気量2.0L台なのでスモールシックスと呼称され、3代目3シリーズであるE36型等に搭載されます。


六本木のカローラと呼ばれるまで広まった2代目3シリーズ、E30型の後継に搭載されたこともあり、シルキーシックスのイメージは3シリーズと共に、世に爆発的に広まっていった、とのことです。


……じゃあなぜ、1968年以降に出た他の直列6気筒搭載車、特にE21型やE30型が、スモールシックス・シルキーシックスと呼ばれなかったのか。


これは多分、シルキーシックスの呼称定着年の問題だと思います。


1975年発売である初代3シリーズ、E21型に搭載されるM10型エンジンは1962年に出たエンジンなので、M30型エンジンより設計が古いです。一方、2代目3シリーズ、E30型搭載のM20型エンジンは1977年から。つまりM30型エンジンより後発のエンジンです。これにシルキーシックスの名が定着していない。


となると、やはりシルキーシックスの呼称はM30型エンジンそのものではなく、あくまで6シリーズの発売である1976年以降、M30B32型以降のエンジンに対して発生し、定着。それ以降の後継開発エンジンであるM50型が、ビッグシックスに対するスモールシックスの呼称を得て、爆発的に広まった、と考えるのが正しいんでしょう。


やがて2015年、排気量のダウンサイジングを求める風潮により、直列6気筒のNAエンジンは、BMWラインナップから消えることになります。

 

2007年からM3にはV8が積まれ、2014年からは直6に回帰したもののノーマルの3同様、ターボ化される。


E46型3シリーズに搭載された名機、M54型エンジンと、その後継であるE90型3シリーズに搭載されたN52型エンジンが、最後の直列6気筒NAとして、シルキーシックスエンジンはその歴史に幕を閉じることになります。


※N53型エンジンは、N52型より2年早い2013年で生産終了されている



話が大いにズレましたが、これが『直列6気筒BMWの代名詞』と言われるに至った理由です。続いてターボの話です。


乗用車のターボに火をつけたのもやっぱりBMWで、1973年のBMW 2002 Turboがその火花です。


ターボの歴史は、1900年代の初頭、蒸気タービン技術に端を発します。


ディーゼル機関車の低回転トルクを向上させる為にターボの導入が試みられ、1925年に完成。そこから船舶を中心に広まり、最終的は飛行機で運用が激化します。

 

軍用飛行機が空気の薄い高高度で飛行する為に、パワーを向上させるターボエンジンが採用され、アメリカで広まりました。B29が、日本の戦闘機じゃ迎撃できない高高度で飛行する理由もターボです。この辺りは湾岸ミッドナイトのユウジ編に詳しいのでぜひ。


その為か、乗用自動車への最初の導入もアメリカでした。1962年のことです。


GMオールズモビルF85カトラスとシボレー・コルベアにターボエンジンを設定。しかし、市場に定着するには至りませんでした。過給圧が低かった為と言われます。それにしては180馬力まで出ていたらしいですが…。


車へのターボ導入が加速するのは、1970年からです。


この年、トヨタが自社初のレーシングカー、トヨタ7をターボ化します。

 

ただし、8月26日の鈴鹿サーキットにおけるテスト中に、ドライバーが事故で死亡。出場中止となり、トヨタ7のプロジェクトそのものが凍結されるに至りました。結果、ターボのトヨタ7は、1,000馬力を超えるとも言われる伝説だけ残し、一度も実戦投入はされず消滅します。


1972年には、ポルシェがターボを搭載した917/10Kをカナディアン-アメリカン・チャレンジカップ(Can-Am) に投入。圧勝します。


そして1973年、満を辞してBMWが乗用車である2002にターボを設定。


ツーリングカーレースで鎬を削っていたポルシェを、1969年、航空機エンジンで培ってきたターボの技術を叩き込んだM121エンジンを搭載した2002tiで破り、そのノウハウを市販車に導入。M10型エンジンをターボ化します。2002Turboは、フロントスポイラーに逆さ文字で「TURBO」と書かれたステッカーが貼られ、公道にその名を轟かせるに至りました。


結局その翌年、1974年にポルシェが930型911にターボを設定し、今まで続く911ターボの歴史を築き上げることにはなるのですが…、市販車として世にターボを知らしめたのは2002Turboが先であり、これはもう、エンジン屋であるBMWの面目躍如と言えるでしょう。


1978年には、2002Turbo搭載のM10型ターボをミッドシップに搭載した、ジウジアーロデザインのスーパーカーBMW M1がパリサロンで発表されます。レースでも活躍し、1981年まで生産されましたが、参戦カテゴリであったグループ4からグループCに規定改定され、生産終了。それからしばらく、BMWの市販車からターボは姿を消すことになります。



そして時は経ち、2006年、BMWは25年ぶりのガソリンターボエンジン搭載車を発表します。


E92型335i 。N54B30A型、直列6気筒ツインターボエンジンを積み、1,300〜5,000rpmまでという広範囲で400Nmを叩き出す、E90型3シリーズのクーペモデルです。


そこから2009年に、エンジンがバージョンアップ。N55B30A型エンジンが発表され、535iに搭載されます。翌年の2010年には、335iのエンジンもマイナーチェンジでN55B30A型に変更されます。B54のツインターボから、ツインスクロールの大型シングルターボに変更され、よりトルクバンドの広い、扱いやすいエンジンへ。ある意味ターボの悪癖が鳴りを広めるエンジンに改良されます。


M235iにはこのN55B30A型が搭載されています。

 

アホほど長くなりましたが、話はここに繋がってきます。

 

2014年。このサイズ感で、この価格帯で、日本ではマニュアルミッションまで設定された、コンパクトな4シータークーペ。

 

おそらくメーカーは、何とかこのN55B30A型エンジン搭載のコンパクトなスポーツクーペを世界に届けたかったんじゃないかと思うのです。

 

その後、BMWのエンジンはモジュラー設計であるB58型へ。

 

3,4,6気筒の共通パーツ化を前提とした、気筒数によらない部品設計を可能とする、生産効率の良いエンジンへと進化します。

 

M235iはその前の、最後のエンジン搭載のスポーツモデルというわけです。



1973年、ポルシェとの戦いで生まれた直列4気筒ターボ。

 

戦前から脈々と続いた直列6気筒に、21世紀になって改めて復活したターボを叩き込んだエンジンが、N54〜55型エンジンです。

 

そいつを全長4500以下、全幅1800以下のコンパクトな4シータークーペに載っけてた車がM235i。それが200万円で買える。どうすか、ほしくなりませんかこの車!!!

 

 

以上です。真面目な話、サイズ感もよくて、キビキビ走るクーペで、相当なトルクがあって長距離も楽で、挙げ句の果てに後席もトランクもある、そこそこ新しい車というと最良の選択肢だと思います。

 

これで屋根が開くならすでに買っています。つたえファクトリー辺りでいい出物がないものか…。