指弾きに切り替えたときの話です。
ギターの弾き方で悩んでいるどなたかの一助になれば幸いです。「こんなやり方で果たしていいのか」と悩んでいても、人間割り切ってしまえばそれはそれで何とかなるものです。
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中学生の頃にギターを始め、思えば20年以上が過ぎました。
歴だけ見ればベテランもいいところですが、「私は一応ギターが弾けるのだ」と確信が持てるようになったのは概ねこの3年くらいの話で、それまではむしろカケラもイメージ通りに動かない指先に対するコンプレックスの方が遥かに強い状態でした。よくもまあ、鬱々としたままそれまで弾き続けたものです。
続けられた理由は、人と合わせる経験をうまいこと間に挟めたからだと思います。
「弾けない」という思いのまま鬱々としていた期間は、今思い返せばすべて「アンサンブルの機会がなく1人で弾いていた」時期でした。それだけ「合奏の中で1パートを担う」という行為は、演奏の基本で、かつ音楽に対するマインドを割と安定させる行為なんだと思います。人間は本能的に、集団の中で承認されることに心地良さを感じるものです。
が、大学に入学するまで人と演奏する機会がなく、卒業してOBサークル活動も休止して以来(どいつもこいつも結婚してしまった)、誰かと音を合わせる機会を逸した私は、「楽器を自在に奏でる」という行為に強烈な憧れを抱きながらも、全くイメージに近づけないまま鬱々とする期間の方が圧倒的に長かったのです。
突破口になったことは2つ。
1つは定期的な録音練習を始めたこと。もう1つは、ギターの弾き方で死ぬほど苦手だったことを諦めたことです。具体的に言うとピックを捨てたことです。
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私はピックを使わない指弾き野郎ですが、「人差し指の爪先をピックに見立てたエセピック奏法」がもっぱらの主流で、小沼ようすけ氏やクラシックギタリストのようなアポヤンド&アルアイレ奏法はあまり使いません。また、ジェフ・ベックや指弾き時のジョン・メイヤーのように、親指と人差し指でグーサインのようにして弾く奏法も滅多にやりません。というよりうまく出来ません。
ストロークは、ダウンが人差し指、アップが親指でかき上げる形です。これもわりと特殊なのか、同じ弾き方をしている人は今のところ直接見たことがありません。我ながらカッティングのときは気持ちの悪い動きをしていると思います。
アルペジオは、クラシック・ソロギターの出身であるのでpima奏法の方が多いです。が、速いハネ感のあるアルペジオのときは爪先のエセピック弾きを使いますし、最近は意識せずにpimaと人差し指爪先を併用していることの方が多いです。
何でこんな訳の分からない弾き方になったのかというと、カッティング時にピックが飛んでってしまう癖がどうしても抜けなかったからです。
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思えばギターを始めてから一番時間を費やしていたのは和音の耳コピで、ベッドに寝転んで音楽を流したり、パソコンで適当なライブ映像を流しながらギターを抱え、聴こえて気になったコードをポロンポロンと鳴らして音取りをしていました。
そんな気の入らない状態でいちいちピックを手に取ることはあまりなく、自然と一番時間を掛けていた弾き方は「指でなんとなくポロポロ鳴らす」であって、おそらくこのせいでピック弾きが下手になったのではと考えています。加えて、小音量で弾く癖が付いてしまったので、しっかりとピッキングして音量を稼ぐ矯正に苦労した記憶があります。
で、エレキに手を出してカッティングなんかをするようになってからはもうダメです。握りが甘く、すぐにピックが弾かれて飛んでいってしまいます。
これが本当にストレスで、アンサンブルを引退して延々と家でエレキを練習していたある日、何でもないフレーズでピックがこぼれ落ちた瞬間にすべてに嫌気がさし、糸が切れたようにしばらくギターを手に取らない日が続きました。
一月ほど経ち、懲りないもので良さげなフレーズを耳にしたりすると、ぼんやりとしたままギターに手を伸ばして音を取るようになったのですが、珍しくソロ的な単音フレーズをコピーしていたときにふと、適当な弾き方のつもりであった「人差し指の爪先によるエセピック奏法」が、わりと手に馴染んでいることに気づきました。
「…………」
いつものように、ちゃんと音が取れたらピックに手を伸ばして練習しようと思っていましたが、考え直しました。これ、もしかしてずっとこのままでいいんじゃないか?
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しかしすぐには踏ん切りがつかず、あれこれと悩む時期が続きます。
エレキ特有の速いブリッジミュート、メタリカのリフみたいな高速ダウンピッキング、16分の速弾きは、流石にピックじゃないと無理なんじゃないかと思っていました。おまけに爪があること前提で練習した場合、爪が折れたら伸びるまで弾けなったり、爪の伸び具合によって弾き方も変わったりするかもしれません。出来る奏法が限定させる可能性がある上に、変な癖が付いたら今より余計下手になることもあるでしょう。
実際にはこの時点で引き返せないレベルで変な癖が付いていたからこうなっているわけですし、上記全ての奏法は今のところ問題なく出来るようになっています。爪が折れたり削れたりして困ったことは今まで一度もありません。爪がなければないなりに弾けます。
それでも当時は弾き方を切り替える踏ん切りを付けるのに、結構な時間がかかりました。
なんせ自分と全く同じ弾き方をしている人間が見当たらないのです。こんな方法で突き進んでいいのか、流石に悩みます。
ただ、いろいろ調べていけば、ジェフ・ベックはキャリア中期から完全指弾きに切り替わったし、小沼ようすけ氏も途中からピックを完全に捨てていたし、ハードロックにもリッチー・コッツェンというフィンガーピッカーがいることを知りました。見てみると3人が3人とも奏法が違います。
まあ別にプロになるわけでもないし、自分の納得の範囲内で上手くなりたいなら、自分のストレスのない奏法で練習してった方が精神衛生上いいんじゃなかろうか。
最終的にはそう判断し、大体2014年くらいから、意識してピックを使わないようになりました。
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結果としてフロントピックアップでのクリーントーンを多用するようになったので、爪や指の腹を使ったピッキングの方が音が映えるようにもなったし、自分なりにあれこれ考えて辿り着いた奏法ということもあって、今はそれなりに気に入っています。
ギターを弾くときにピックが見当たらない、落として困るというトラブルがない点も良いです。
人差し指の爪を切り過ぎたときは少しだけ困りますが、数日もすれば生えてきますし、急を要するときには付け爪を買ってきて貼れば良いです。十分です。
ギターはわりとカジュアルな側面のある、親しみやすい楽器だと思います。たとえばよくある、「Fコードで挫折する」という話も「別に6弦全部鳴らなくても伴奏上大きな問題はない」ということに気づいて弾けるところを弾くだけで、大分続けやすくなると思います。
弾けなくて思い悩んだとき、試行錯誤しながら「弾きやすい」「自分に合った」方法に回避してみることも続ける上では重要かと思うのです。私はおかげで今でもカッティング時にピックが使えないのですが…。