梁井、代車に乗る(BMW 530i E61型)。
張り切って一週間の夏休みを取ったにも関わらず、キャンプ道具を満載して出発したその初日に車がぶっ壊れたこともあって、ショップからは(不可抗力ではありますが)慰謝の言葉と、ありがたいことに早急な代車手配をいただきました。
E型世代最後の5シリーズツーリングです。
エンジン:N52B30 直列6気筒 2,996cc 自然吸気
ボディサイズ:全長 4,855× 全幅 1,845 × 全高 1,470 mm
ホイールベース: 2,890mm
トレッド:前/後 1,560/1,580mm
タイヤサイズ:245/40R18
車重:1,780kg
最高出力:258ps(190kW)/6,600rpm
最大トルク:30.6kg-m(300N・m)/2,500-4,000rpm
最小回転半径:5.7m
F30より一回りデカい車です。
代車というのはおもしろいもので、私の周りでは大体の場合『世代落ちのEセグメント車』が貸し出されます。『人と荷物がそこそこ積めて車格も高い』ことから、愛車に乗れずに意気消沈している顧客を慰める効果が高いからだと思われます。私の友人のR172型SLK55乗りは代車にEクラスセダンを当てがわれた結果、多彩になったアンビエントライトにテンションをぶち上げながら、ピンクだ紫だ怪しい色に光らせては友人知人を乗せて走り回っていました。
一方、『代車にガソリンを食わせたくない』という愛車原理主義者向けに、プリウスやミライース等、燃費命の車を選べるパターンもあるそうですが……、ともあれ、普段と違う車に乗ることが出来るこの機会は、中々に貴重なものです。
加えて、530i搭載のN52B30エンジンは、私のアルピナと同排気量かつ同様にバルブトロニック搭載型で、大きな違いはポート噴射であることと、NAであることくらいです。
同排気量のNA・ターボ比較が出来ます。世代は10年近く離れていますが……。
そんなわけで、落ち込んでいてもチャージパイプが自然治癒するわけでもないので、私は気持ちを切り替え、E61型530iを一週間堪能することにしました。
◇
<デカい>
結論から述べますと、私はこの車を経て「次買う車も出来ればDセグメント以下にしよう」と思うに至りました。デカいです。
※E46と並ぶE61。デカイ
F30より、3cm広く、20cm長いです。普通に乗ってる分にはそこまでデカさを感じないので「余裕じゃん」とか思っていたら、前からデカいトラックが来た際に左に寄り過ぎて、縁石でタイヤサイドを擦ってしまいました。大反省。ショップには申し出済です。
挙句に、ホイールベースも8cm長いので、狭い出口だと、内輪差でサイドシルが縁石に乗り上げそうになります。コペンのときのように「無造作に曲がって何とでもなる」感はありません。
狭い駐車場なんかに行くと、鼻先とケツと幅に慣れないうちは、据え切りにならないような切り返しに気を使います。
ある意味では、「コペンの小ささに頼って鈍り狂っていた車両感覚のままDセグセダンに乗り換えて、いつぶつけてもおかしくなかった状況から、代車でさらにデカい車を運転したことで己の運転の下手さに気づいた」ところがあります。車の乗り換えは、こういうのに気づくきっかけにもなりますね……乗り換える前に気づけという話ですが。
ただ、デカさについては「サイズをバッチリ頭に入れて運転すれば切り返しの面倒はかかるけどぶつけることは基本ない」はずなので、「F30が小さい」と思えるようになったら、おベンツさんのEなりSなりに乗ってみたいところです。W222世代がね、好きなんですよ…。
<低速トルク寄りのNAエンジン>
そんなに速くはないですが、これは比較対象が悪い気がします。
シフトダウンして踏み込んでも、ドカンとは加速してくれません。NAですがトルクは低回転寄りです。
調べてみたところ、元々バルブトロニックは、スロットル常時全開という特性からレスポンスは向上するものの、バルブにリフト量を変化させる機構を付けることで吸気バルブが重くなる為、高回転が苦手と言われており、この第二世代から改良されて、何とか7,000rpmまで許容されるようになったとのことです。とはいえ、元々の特性と、時代柄と、Eセグメント車の性質も踏まえて、この車も低速トルクよりにセッティングされているものと予想します。それでも最大出力はレッドゾーン手前の6,600rpmか……。
なお、この車を運転していて、コペンの影響で「3,000〜4,000rpmでアクセルを抜く癖が付いていた」ことに気づきました。すっかりターボ野郎の身体です。B3のトルク特性がやたらとフラットなので、現在は流石に矯正されているものと思われますが……。
◇
<どっしりとした硬い足>
タイヤはナンカンのNS-20を履いてました。新品っぽいです。18インチ。
正気を保った大きさだなと見ていてしみじみ思います(当方リア20インチ30扁平指定)。
乗り心地は、硬めで揺れの少ない、アウディA3やアルピナに比べても、ストロークが短い感じがします。
強い入力が入ったときも硬さで抑える感じ、そこそこ腰にくる衝撃です。アルピナのいなし方は、スポーツモードでもうまいと思います。
ただ530iも、高級車らしいどっしりした乗り心地で、腰高感もありません。
「デカい段差での初期衝撃と、そのときのストロークの長さの違いがあるけど、ドイツ車全般、振動の収まりはみんないい気がするね」というのが、同乗した新山さんの談です。
プラス「革シートがめっちゃいい。ズレない」とのこと。高級車の本質っつーのは、パワー云々より、多分広義の『乗り心地』なんでしょうね。
◇
<デザインが超パワフル>
この車のデザイン、クリス・バングルがチーフデザイナーを務めた時代における、ピニンファリーナ出身のイタリア人である、ダビデ・アルカンジェリの作品とのことです(しかもこれが遺作となった)。
エクステリアに関しては、「えらいイカつい顔してるな」というのが一番の感想で、好みかと言われると答えに窮しますが、「BMWの転換期となった時代の代表車」と言われると、趣深さを感じるところでもあります。
フロントフェイスは、後輩たるE90同様、縦のデザインラインが目立ちます。釣り上がったライトと、クッキリと切り込まれた瞼下、目頭の彫り込み。ボンネット下からサイドウィンドウ、リアテールランプ上端まで流れるデザインラインが厳ついです。
続いてリア。写真はセダンタイプです。
リア・トランク周りのデザインは、建築家フランク・ロイド・ライトが1936年に設計したアメリカの個人宅『落水荘』がモチーフとのことですが、どの辺がその影響なのか私にはさっぱり分からず、前世代にあたる新山のE46や、後輩にあたる私のF30とひたすら比べてみたところ、「トランク開口部がストンと落ちておらず、トランク周りが切り込まれたようなデザインになっている」点が特徴なんじゃないかと愚考しています。特にテールランプ下。
90年代のセダンのリアって、わりとストンと落ちているデザインですよね。もしかしたら、トランク周りの造形が複雑になった、その走りの車なのかなと、これを見て感じたりしています。
続いて内装。
ドリンクホルダーは後のE90と同様、格納型です。この位置わりと使いやすいと評判がいいみたいですね。普段仕舞える、というのもスタイリッシュで好きです。
あとこの車、ドア周りのスイッチ配置が謎です。
ドア側に斜めに付いています。
ハンドルから手を平行に動かせばいいので便利と言えば便利な気がします。数回乗った程度では慣れませんでしたが、デカイ車は空間に余裕があるはずなので、これは中々機能的だと思います。面白かった。
◇
幸いにもアルピナN55用純正チャージパイプの在庫が国内にあったようで、一週間足らずで交換が完了したおかげで、E61との逢瀬も数度の乗車で終わりましたが、キャンプ道具と着替えを満載してなお余裕のあるワゴンタイプの利便性と、「3.0LもありゃNAで十分」という当たり前過ぎる事実を認識できました。
ただ、ボディシェイプの好みでいうと、セダンとして開発された車はやっぱりセダンがいいですね……。ワゴンを買うなら、レヴォーグみたいな初めからワゴンとして開発されたモデルが良いです。スバルのアイデンティティ的にまずあり得ないでしょうけど、アレ、ディーゼルで出てくれないかな……。
そんなわけでありがとうE61。またお世話になることがあればよろしくお願いします。
次はオーバーヒートの回です。続きます。
アルピナ、故障する。その1(チャージパイプ破損)。
B3について大事なことをまだ書き記していませんでした。怒涛の故障ラッシュについてです。
納車から半年。故障箇所は4つ。①ターボチャージパイプの破損、②電動ファンの物理的故障、③エアコンからの異音、④道路陥没によるホイール損傷とエア漏れで、総修理費は地獄の60万円です。
『4週間経つと壊れて入庫、それからしばらく帰ってこない』という事例が何と4回続いたので、さすがに考えるところがあり、最後の修理から戻ってきたその足で西新井大師に車のお清めに行ってきました。仏の加護かは分かりませんが、幸いそれ以降、トラブルは起きていません。
本記事からしばらく、B3の各種不具合と、それに対する格闘、代車との蜜月、驚きのパーツ代、保険対応、そして帰ってきたB3の甘露のごとき走行フィーリングについて述べていきたいと思います。
流石は70,000kmの中古外車。定期整備はされていても、壊れるときは壊れます。それも不思議と、オーナーが変わった直後のタイミングで……。試されてるのか?
◇
記念すべき一発目は、2022年8月20日。この車で初めての遠出、毎年恒例の夏休みキャンプツーリングに出立した、その矢先の出来事でした。
上信越道を快走中、右車線がすっからかんだったので「よーしパパちょっとだけ踏んじゃうぞー」と3速までシフトダウン。車線変更の為にアクセルをグイッと踏み増したところ、エンジンルームから轟音が響いてB3が壊れました。
ターボチャージパイプの破損です。
タービンで過給された圧縮空気は、インタークーラーを経由して冷却された後にエンジンへ送り込まれるわけですが、そのエンジン手前、スロットルボディーに接続されている樹脂パイプが、1.2バールまではね上げられたブースト圧に耐え切れず、経年劣化した接続部から抜けて破損。「ドン!」と音がして、『踏んでもジワジワとしか加速しない』状況に陥りました。
つまるところこれは『ターボ過給が意味をなさなくなって、単に吸気効率の悪いNA化された』状況なのですが、当時の私にそんなことが分かるわけもなく、「元気よく踏んだらとんでもねえ音がしてB3が壊れた」としか認識できませんでした。
自走することはするのですが、明らかに異常が起きている状態で遠出なんて出来ようはずがありません。その場で停まって路束帯に寄せるべきか逡巡はしましたが、私はおそるおそる最寄りの佐久平PAまで辿り着き、そこですべての予定をキャンセル。B3は、かかりつけの主治医がいる地元のショップまで、はるばる180kmの旅程を、任意保険オプションのロードサービスでドナドナされていくこととなりました。
※レッカーされるB3の図。悩んだ挙句、高速から佐久平駅まで降りてきて、そこでレッカーを待ちました。後述の通り、私の特約加入では移動費用が補償されない為です。
◇
「ミッションだとしたら怖いですが、おそらく以前お話したチャージパイプだと思います」
一通り状況を整理した後、パーキングの車内からショップへ電話したところ、営業さんの見解は上記の通りでした。
アクセルを踏んでも加速が鈍いので「イメージとしてはミッションが滑っているような感覚」だったのですが、ミッションの滑りなら「エンジン回転は上がるけど速度が付いてこない」状態になるはずです。回転の上がり方そのものが鈍い状態だったので、吸気系か点火系の異常だろうと思ってはいました。
営業さんの「以前お話しした」の言葉で、私の脳裏には、うっすらと納車時の会話の記憶が蘇ってきました。
「……ATフルードとミッションオイルパンも換えてますし、スパークプラグも全交換してます。あと危ないところは、BMWターボモデルの泣きどころなんですけど、樹脂製のターボチャージパイプが、劣化で破損することがあってーー」
※接合部のOリングごと弾け飛んだチャージパイプの図。奥まった場所を通っていて、ショップで指示してもらわないと見つけられなかった。
どうもよくある故障のようで、レッカーを待つ間ネットで調べてみたところ、特にN55エンジンを載せたM235i、M2などで同様の事例が出てきました。
※上記は日本一速い(と思われる)エロ漫画家、あかざわRED氏のM2のチャージパイプ故障時の動画です。こんな感じでいきなり来ます。
何故そんなに割れやすいものを樹脂製にするのか。実際、アルミ製の強化アフターパーツが出回っていて、N55搭載車でスポーツ走行をされる方は大半が交換しているようですが、このパイプおそろしいことに、普通に走っていても抜けるときは抜けます。
「メーカーとしては、こういうところでコスト削減してるんだろうね。ドイツ車は特に、『壊れるものは壊れるべきときに壊れて、然るのちに修理する』みたいな思想だしさ。もしかしたら、吸気の高負荷時には樹脂パイプが壊れることで、エンジン本体へのダメージを事前に軽減させる効果が……ある程とは思わないけど」というのは後日話を聞いた新山さんの談です。
それならパーツ代も安いかなとタカを括っていたところ、アルピナ純正品、ニコルからの購入で何と91,080円(税込)でした。
まさかのBMWとは別パーツ扱いです。配管取り回しの問題なんだろうか……。
BMWパーツなら40,000円ちょい。アルミ製の社外強化品なら50,000円ちょいと聞きましたが、アルピナエンジンのせいなのか強化品は受注生産で、納期2ヶ月だそうです。
入庫翌日「どうしますか?」と聞かれたものの、納車2週間後に2ヶ月の入院はさすがに耐えられません。純正品なら国内在庫があるので数日で届くとのことだったので、大人しく純正品で済ませることにしました。
今思えばいっそ電動ファンのときと一緒に壊れてくれれば、その入院期間(1ヶ月半)に合わせてアルミパイプを発注したものを……。
◇
最後に、保険のロードサービスについてです。
私の保険は損保ジャパンのTHE クルマの保険なのですが、ロードサービス利用はもちろん等級に影響がなく、レッカー牽引費用は150,000円までは無料です。牽引距離でいうと概ね180km前後でしょうか。これに代車等諸費用特約を付けると、代車・移動・宿泊費用が一定額まで保証されます。
が、私の場合、元々がコペンを新車で買って「立ち往生のトラブルなんかそう起こりゃせんだろう」と余裕をぶっこいていたので、代車特約など付けておらず、悔やむらくは買い替え時もそのまま車両入れ替えだけ済ませていました。よって、佐久平から帰郷する交通費は完全に自己負担です。レッカー車は法律上、人間を輸送することはできません。
このときは運転手1人だったこともあり、たまたま魔法の力でショップまで運んでもらえましたが、同乗者がいた場合には悲劇になっていました。単独行が功を奏することがあったとは……。
また、佐久平からいつものショップまでの距離は、何と179km。ギリギリです。
怯えながらレッカーのにいちゃんに聞いてみたところ、「補償額を超えた場合には後日保険会社から請求がすると思うけど、多分大丈夫だと思うよ」とのことでして、結果として請求が来ることはありませんでした。セーフです。
セーフっつっても買って2週間で修理費9万円です。50万円くらいは何かあった時のために見込んでおこうと思ってはいましたが、早々に消費することになるとは思ってもいませんでした。挙句に保険でギリギリの恐怖を味わったので、「中古外車に買い換えるときは信頼できる人間に特約見直しの相談をした方がいい」と強くここに勧めさせていただきます。重ね重ね、壊れるときは壊れます。
※出発前、キャンプ道具を満載したB3のトランク。「コペンのときと違って助手席に積まなくていい!最高!!」となっていたのが今思うと物悲しい
◇
チャージパイプは無事数日で届き、記念すべき一発目の故障は1週間ほどの入院で済みましたが、これで終わらないのがこの車です。次は冷却系がぶっ壊れます。
が、故障二発目の前に、次は代車でやってきたE61型5シリーズツーリングについて書き綴ります。同じ排気量3.0LでこちらはNAだったのがおもしろかったです。続きます。
半年所感 / BMW ALPINA B3 Biturbo Limousine F30
「ストラトキャスター」と呟くだけで元気の出る人間でしたが、最近は「直列6気筒」と呟くことでも興奮できるようになりました。梁井です。
加えて、度重なるトラブルによって、F30型の「ピコーン」という警告音がトラウマになりかけてもいます。
画像は電動ファン不良時のオーバーヒート警告です。ちょっとした通知も全部この音で、冬場なんかは外気温が3度を下回ったときもこの音で通知してくるので、寒い夜に1人で走っていると心臓に悪いです。起床のアラームにしたら目が覚めるかもしれません。毎夜の夢見が悪くなりそうですが……。
ともあれ、B3がやって来て半年が過ぎ、連発するトラブルも落ち着いてきまして、ようやっと車の良さを落ち着いて味わえるようになって来たところです。
というわけで今回は、B3に半年乗っての所感を書き綴ります。国産軽オープンから、ドイツ謹製『スペックで笑いを取れるタイプ』のバカ速セダンに乗り換えた男の率直な感想なので、結論「すげえ」「やべえ」「速え」に終始しておりますが、可能な限り具体的に記述しようと試みています。ご笑覧ください。
◯『エンジンが気持ちいい』という初めての感覚 / 直列6気筒ツインターボを讃えよ
B3を買って一番よかったと感じている点はここです。エンジンが異様に気持ちいいです。
まず低回転域。600rpmのアイドリングからジワリと踏み増したときの、2,000rpmくらいまでの感触。通常発進だとちょうどこの辺りでシフトアップするので、発進加速時、アクセルペダルから伝わる、エンジン回転のブィーンという振動感に、謎の気持ちよさがあります。
回転振動の細かさがきれいに揃っていると言いますか。如何とも表現しがたく、回さなくても気持ちいいエンジンというのが何に由来するのか、今までさっぱり分からなかったのですが、「もしかしてこれがそうか?」と感じています。
これが多気筒所以なのか、直列6気筒の特性によるピストン上下振動の打ち消し所以なのか、BMW謹製スロットルバルブレス・バルブトロニック機構の為か、はたまたアルピナのエンジンがそうなのか。この辺りは(おもしろレンタカーなどでゆくゆく)他の車にも乗ってみて確かめたいところであります。
低速域での排気音もわりと好きです。低過ぎないブォーという感じ。街中を普通に走っていて気持ちいいというのが、コペンと理由は異なりますが、共通してくれたのは嬉しい誤算でした。
続いて高回転域。
もっとボーボーいうかと思っていたらそんなことはなく、2,3速で上までぶん回したときのスムーズな吹け上がりと、低域とは性格の異なるクォーンという音色の混ざり方は、ウヒョーと叫びたくなる気持ちよさがあります。
※その分加速もとんでもないので、ペダルの踏み方は常に抑え気味にしているのですが…。アクセルを全開にしようものなら離陸しかねない加速をします。踏力半分で十二分です。
このスムーズさは、多分直6の所以でしょう。余計な振動なくスーッと回転が上がって行きます。加えて、ターボラグも感じられません。コペンは「トルクが立ち上がった」と分かる領域が3,000回転ちょっとのところにありましたが、B3のトルク特製はやたら平坦で、少なくとも私にはどこから過給が掛かったのかが分かりません。
この点だけ見ればNAみたいな吹け上がり方をします。当然NAと違って6,000rpm〜トップエンドまでのもうひと伸びはないですが、ターボならではの鬼トルクが、やたら均等に割り振られています。
コペンも吹け上がりは軽やかで気持ちよかったものの、『エンジン回転そのものが心地良い』いうのは初めての感覚です。
さすがは元エンジンチューナー。エンブレムに、キャブレターとクランクシャフトがデデンと鎮座しているだけあります。
キャブレターは遥か昔の異物だし、エンブレムのクランクシャフトは4気筒用だし、と言いつつも、アルピナのエンブレムはその調律の方向性をよく表している気がします。低域も広域も、回転フィールが異様に心地いいです。
アルピナといえば足回りに言及されることが多いですが、私が乗っていて一番気に入っている点はエンジンで、ステアリングのエンブレムを見ては、そのことをほんのり嬉しく感じている日々です。
◯ 高級セダンなのかチューンドコンプリートなのか
変な車です。ラグジュアリーにしたいのか、チューンドオーラを出したいのか隠したいのかが分かりません。多分両方なんだろうと思います。
この辺りの微妙なバランス感が好きな人が、アルピナに行くんだろうなと思います。私は非常に気に入っています。
スーパーカークラスのオーナー、はたまたチューニングを主戦場としているそのスジの方々にとっては、バブリングと言ってもバラバラ鳴るくらいで「パァン!パパパァン!!」と拳銃の発射音みたいな音がするわけでもない、アルピナのエンジン及びアクラポビッチのマフラーは、「ECU弄ってマフラー換えてもっとバリバリさせてやろう」となるくらい、大人しい部類に入るのかもしれません。が、コペンを8年フルノーマルで乗ってからアルピナに買い替えた私にとっては十二分に凶悪です。
ビジュアル面も同様です。私にはこのエクステリアが『控えめ』にはどうしても思えません。
まず、20インチホイールのクソデカさによる、車体とのアンバランスさ。
※ノーマルに比べて明らかに『下』がデカい
300km巡航に耐えうるエアロ武装、特に顎を擦るほど低く引き伸ばされたフロントバンパーの威圧感。
ブレーキはローター径370mmのどデカいのが付いてますし、キャリパーはフロントが対向4ポットで、こちらはそこまで厳つくはないですが当然のようにブレンボです。
おまけに、大層鳴きます。キーキーじゃなく、停止時に、ファン!!!というホーン音のような謎の音がします。ドイツ車はこんなもんだと言われても、私にはやはりエラいもんが付いているとしか思えません。
ついでに冷却系も微妙に強化されていて、ワット数のデカくなった電動ファンが付いています。買って1ヶ月でぶっ壊れたのですが、交換費用が工賃含めて何と18万円でした。「これねー日本に入ってきてない335d用の電動ファンが付いてまして。普通のならもうちょっと安いし中古品も探せるんですけどねー本国オーダーになっちゃうんですよどうしても」とのことです。勘弁してほしい。
アルピナB3、その本質は『控えめ』というより、『やってることはゴリゴリのチューニングだしスペック数値も付いてるパーツも強化品だらけだけど、最終的なセッティングに関してだけ、控えめに寄らせることでギリギリでラグジュアリー感を保ってる』が正しいように思えます。
Biturboの名前が付いているモデルは特にその傾向が強いと思います。3シリーズでいうとE90以降。F系からは前述の通り、とうとう20インチホイールを履くようにもなったのが助長して、F30は特に、車体とホイールの大きさにおけるアンバランスさが強調されています。G系からは車体も一回り大きくなったので、こちらはもっとバランスが取れているように見えるのですが…。F30はアルピナのシリーズの中でも『見た目の威圧感』が殊更に強い気がします。
しかしながら、エンジン特性と足回りは、間違いなく扱いやすさ重視です。『速さ』を第一目的にしておらず、『グランドツーリングに求められる性能の一つとして速さがあるので、あくまで仕方なくバカっ速くした』というスタンスを感じます。
乗り心地はしなやかだし、踏み込んでも爆音ではない上に、トルクの立ち上がり方も穏やかです。トルクそのものが穏やかとは言えませんが。
飛ばすより、街中や超長距離を楽に楽しく乗り回したい、という今の私にとっては正解ど真ん中の車です。
◯8速トルコンAT / 変速スピードは十分速い
この車の8速AT、デュアルクラッチ等ではなくZF製のトルクコンバーター式です。
が、安藤の愛車・アウディA3の7速DCTに比べても、変速スピードは遜色なく、しかしながら変速ショックは、A3の方がむしろ柔らかなくらいです。B3、1→2速の変速ショックは(A3比で)そこそこあります。
これは多分どっちが悪いというより、逆にどっちも良くできているのでしょう。気にはなりますが、デメリットに上げるほどではありません。昔のATに比べれば十分柔らかです。
◯スイッチトロニックとスポーツモード / 手動変速が気持ちいい
この車、パドルがありません。
「パドルシフトが一般化する前からウチはスイッチ一本でやっとったんやで」という漢気なのか、コスト面でその方が楽なのかは不明ですが、G系でオプション解禁するまで、アルピナは独自のスイッチトロニックを使い続けてきました。
※◯のボタンで変速します
「咄嗟の瞬間はパドルの方が使いやすいし、見た目の派手さがなくて寂しい」と思わなくはないですが、ステアリング周りがスッキリするし、これはこれで風情があります。こいつはまあ、アルピナの言う『アンダーステイトメイト』感がなくないです。気に入っています。
走行モードは、エコ、コンフォート、スポーツ、スポーツプラスの4つがあります。一般道はコンフォート、高速はスポーツに切り替えて使っています。
走行モードで変化するのは、ステアリングの重さ、ダンパーの硬さ、変速スピード、そして(おそらく)アクセルレスポンスです。
前者2つの変化は如実で、高速道路くらいの速度で走る場合は、ハンドルがどっしりしていて足が硬い方が乗りやすいです。
ずっとこれでいいやと思ってから下道に降り、走行モードをコンフォートにすると、突き上げの緩衝が柔らかになるし、ステアリングの重さも程よくて、「うまくセッティングしてくれてるんだな」としみじみ感心します。本当に良くできていると思います。
ちなみに、ステアリングはコンフォートでも同年式のアウディA3よりやや重めです。
コンフォートにしろスポーツモードにしろ、シフトレバーを左に倒して完全マニュアルモードにし、上までぶん回してスイッチトロニックで変速するのは大層気持ちがいいです。アクセルを踏み込みさえしなければ、スピードを出さなくてもこれで十分楽しく走れます。
アクセルを踏み込まなくても、操作に対して返ってくる車の反応が心地いい、というのが良い車、良い機械の本分なんだろうなと感じ入っています。
◯サンルーフ4ドアセダンはオープンカーの代わりとなるか?
最後に。
オープンカーを降りたら死ぬんじゃないかと思ってコペンに乗り続け8年。一念発起して4ドアセダンに買い換えた際、「無事に精神安寧を保てるのか?」と友人から尋ねられましたが、何とかなっています。
買って当初はサンルーフオープン、窓も全開にして走っていましたが、最近はほぼ全閉で走っています。チルトも滅多にしません。
B3の場合、風を社内に入れながら走るより、クローズにしてエンジン音と排気音をうっすら聴きながら走った方が楽しいです。オーディオすら消して走っていることが増えました。
オープンカーとはまた違った良さがあって、これはこれで満足しています。
というわけで、『サンルーフはオープンカーの代わりにはなり得ないが、別の良さがある』というのが結論です。楽しみ方は異なる以上、楽しもうと思えば何でも楽しくなるもんです。
◇
以上、買った半年、故障に泣きながらも懲りずにあちこち走り回った所感です。
総じてコペンとは180度違う楽しさがあるので、ひたすらに新鮮で面白いです。機械としての上質さっていうのはこういうものなんだろうかと、各種操作に対する反応の機敏さ、というより上質さに、ニタニタしながら走っています。
エクステリアもインテリアも好みの極致なので写真を撮りまくってます。おかげでクラウドの保存容量がパンパンです。
大分車にも慣れてきたので、来年にはスタッドレスを履いて雪国に突撃しようと思っています。
※これは一足先にスタッドレスと天下のBBSホイールを入手し雪道に突撃する新山のE46型B3。やっていることがシルビアでもサファリでもアルピナでも何一つ変わっていない
次回は地獄の故障記録でもまとめようかと思います。トラウマが蘇るので筆が乗る内容ではないのですが…。
梁井・新山、アルピナを買う。その3。
購入記その3です。
※新潟にキャンプに行ったB3の図。後で知ったのですがこのとき既に電動ファンが破損しています
「いつの間にかマニュアルのB3が出てるな」と思ってはいました。
さらに言えば、それを見て「ツーリング主体ならMよりアルピナの方が合ってるかもね」みたいな話も、確かにした記憶があります。
しかしながら、こうも「ミイラ取りがミイラになる」の典型みたいな車の買い方を目にすることは滅多にないと思います。私を焚き付けて見に行った車屋で、ある日突然、新山がBMW ALPINA B3 E46型のマニュアルモデルを買っていました。
※衝撃のツイート
「正確には取り置いてもらってから1週間後に契約したんだけど、それはあくまで金の工面と、彼女に話を通す為だけの時間であって、買うこと自体には何の迷いもなかったね。M3より100万円安いアルピナのマニュアルが、専門ショップで買える。迷う理由がなかった」
大型二輪の免許交付を受けた帰り道のことだったそうです。
「バイク売ろうかな」とボヤキながらも何故か「取れるうちに取っておこうと思って」と突然大型教習に通い出し、いつの間にか合格を果たしていて、この日に免許センターへ交付を受けに行くとまでは聞いていました。その帰路と思しき時間帯、私は新山の上記ツイートを発見。
「しばらく大型バイクを買うつもりはない」と話していたものの「ああ、やっぱりバイク買ったんだな」と思いリプライで尋ねてみたら、何とバイクじゃなくて車でした。
「サファリはどうした!」とか「M3にスマホ忘れてったのはやっぱりわざとだったんじゃ!」とか、いろいろと思うことはありましたが、最初に浮かんだのは「先を越された!」という敗北感でした。
別に車なんて好きなときに好きなもんを買えばいいですし、誰かが買ったのに触発されて買うもんでもないと思いますが、少なくとも乗り換えを逡巡していた私に、結構な衝撃を与えたことは事実です。
改めて店の在庫を見てみたところ、アルピナが何と3台置いてあります(新山の買ったE46を含めると4台。驚異的です)。世代別に選べる状況。しかも、ISの新車を買うより安い。
ついでに私は思い出しました。そういえば今年昇格して、まだ自分には何も買ってないんだよな、と。
これだけ何年も「GT性能の高い車に乗り換えてみたい」という欲求を抱き続け、コペンでは北の端から南の端まで無事走破して、乗っていてしみじみ楽しい車ではあるけど、そろそろ次に行ってもいいんじゃないか?
目の前にセダンの極致たるアルピナが3台、買える値段でぶら下がっています。こんな状態がこれから何度ある? そもそもおまえ昔から「BMWの3が好き」「F30のデザインは至高」「アルピナならなおいい」とか言ってなかったか?
私は腹を括ることにしました。
買っちまおう、アルピナ。
◇
あとはもうどれを買うかです。お店には何と、E39、E90、F30、3台のアルピナが買える状態で置いてあります。
まずは、4代目5シリーズをベースにしたE39型。全長のデカさと古いATが理由で見送りましたが、90年代に生まれた車、やっぱり好きです。憧れがあります。
◯BMW ALPINA B10 3.3 (E39型 5AT)
エンジン: S52B32 Turned by ALPINA 3,299cc(E36型M3北米仕様搭載エンジンのチューンド)
ボディサイズ:全長 4,775 × 全幅 1,800 × 全高 1,435 mm
ホイールベース: 2,830mm
トレッド:前/後 1,510/1,520mm
タイヤサイズ:235/40R18 / 265/35R18
車重:1,640kg
最高出力:285ps(209kW)/6,200rpm
最大トルク:34.2kg-m(335N・m)/4,500rpm
これ、新山のE46型B3 3.3と同じエンジン積んでるんですね。北米仕様E36型M3専用の鋳鉄ブロックエンジン。当時のアルピナとしては余程使いやすかったんでしょうか。
ちなみにこのしばらく後、1世代前の5シリーズであるE34型525iが在庫で現れ、この型のエクステリアが激烈に好きな私は大いにぶちアガった記憶があります。
幼い頃、近所に住んでた幼馴染の家の車が黒いE34型525iで、「車っていうのはこんなにも存在感があるものなのか」と幼心に憧憬の念で見ていました。何度か乗っけてもらったような気もします。良い思い出です。もしアルピナの前にこれが出ていたら、憧れ全振りで買っていたかもしれません。
お次はE90型のB3S。
◯BMW ALPINA B3S 3333 Limited (E90型 6AT)
エンジン:N54B30 Turned by Alpina 直列6気筒DOHCツインターボ(同型335iのチューンド)
ボディサイズ:全長 4,545 × 全幅 1,815 × 全高 1,440 mm
ホイールベース: 2,760mm
トレッド:前/後 1,505/1,510mm
タイヤサイズ:245/35R19 / 265/35R19
車重:1,600kg
最高出力:410ps(302kW)/6,000rpm
最大トルク:55.1kg-m(540N・m)/4,500rpm
ただでさえ台数が少ないB3の中で、後期ハイパフォーマンス版のS。しかもこいつは30台しか作られていないというとんでもない希少車です。
走行距離は5万キロちょい。トラブルが出始める距離にはもう少し余裕があります。
これは見積もり出してもらうところまで行きました。最初に見たのがE92型M3だったこともあって、「アルピナに行こう」と思ってから、まず目を付けたのはこいつです。
予算に対して余裕もあるし、腹を括ったタイミングで珍しいのが出ているのも何かの縁だと思えます。ベスモで絶賛されていたE90世代なら心中も本望かもしれんと、半ばこいつに決めかけていました。
が。
しかしです。
「次の車は見た目で決めてやる」と重ね重ねボヤいていたことを、ここでふと思い出します。
これがE92型、クーペタイプだったらそのまま決めていたかもしれません。この世代はクーペとセダンでリアテールランプのデザインが大きく違いまして、クーペタイプの伸びやかなリアデザインがいいなとM3を見て感じていた身としては、セダンのリアを見て「ちょっと寸詰りだな」と感じてはいました。
内装がアルピナ特有のウッドパネルでないことも「珍しいなあ」と思って惹かれてはいましたが、いざ「車を乗り換える」と心に決めてから、俗に言うマリッジブルー的な、「本当にこれでいいのか?」という自問が生まれてまいりました。
クリス・バングルがチーフを務める体制での永島譲二氏デザインによるE90。大胆な変革期のデザインは偉大だとは思いますが、縦のラインが強調されたフロントフェイスのデザインは、自分が好みかと言われればそれは一考の余地があります。正確にいうと、E61系統のぐいっと目元が吊り上がったデザインはちょっと苦手で、ベスモで元気よく走り回る姿を見ているうちに違和感がなくなってきた、というくらいです。
最後に、その隣にひっそりと停まっていたF30型のB3。
値段が高かったので無意識のうちに見ないようにしていましたが……、一度意識してしまってからはもうダメです。これしか目に入らなくなりました。
デザインが美し過ぎます。
F30型のデザインについては別途ちゃんと調べてまとめたいとまで思っているのですが、 ーーチーフデザイナーがクリス・バングルからエイドリアン・ファン・ホーイドンクに変わった後の車で、クリス・バングルのデザイン革新が浸透し、馴染みを得た後、その方向性を踏まえた上で、さらに変化させてきたところが特徴だと思います。具体的には本の受け売りですが、『縦のラインより、横のラインを強調させて低さと幅感を出す』だそうです。
買ってからバシャバシャ写真を撮ったり缶コーヒー飲みながら駐車場で眺め狂ったり、新山のE46と見比べたりすると、しみじみその特徴が見て取れます。下記が好きなポイントです。
・ヘッドライト・キドニーグリルの位置がE90どころかE46と比べても低いことによる、低く構えた緊張感のあるスタイリング
・ヘッドライト内側のアイラインメイクのような絞り方と、キドニーグリルへの接続による目力の強さと艶っぽさ
・リアテールランプのワイドさによる、どっしりと構えた踏ん張りの効いた重厚感
・レイヤーを積み重ねたようなインテリアデザインと、ナビがフードを被ったようなE90のディスプレイ配置に比べて立ち上げ式となったことにのる運転席目線での解放感
逆に「微妙だなあ」と思う部分もないわけではなくて、下記の点は少しばかり気になるところです。
・ボンネットカットの唐突さ(先代と先先代はキドニーグリルの上端あるいは下端がボンネット開口部になっており無駄なラインがない)
・サイドから見た時のフロントフェイスの凹凸のないぶった切り感
・デザインで低く見せても絶対的な全高による車のデカさ
が、購入検討時にそんなことは全く気にもしておらず、『はちゃめちゃに美人かつ超好みのキャバ嬢が隣に着いてくれたときのサラリーマン』のような状態に陥っていました。目を見ることすら出来ません。
値段は予算内にギリギリ、本当にギリギリ上限で収まっています。
ウッド調の内装も、初めは「おっさんぽいんじゃないか」と思って敬遠気味でしたが、フーガとサファリで見慣れてきたこと、F30のインテリアデザインがそもそも好みであること、「ぽいも何も自分はおっさんではないか」と自覚したこと等から、むしろいいんじゃないかと思い始めてきました。ちなみに、内装の木材は楡の木だそうです。
スペック数値と快適装備についても、E90後期B3SとF30前期B3では差がほとんどありません。馬力も同じなくらいです。
違いは年式とデザイン、そしてエンジンの細かい仕様と言ったところです。
エンジンはどちらも直列6気筒のツインターボで一世代違いですが、E90に載るN54エンジンは、直噴搭載の代わりにバルブトロニックを非搭載。F30に載るN55は、直噴とバルブトロニック、双方の機構を搭載しています。これは買った後に知ったので、己のアクセル操作で制御しているものがスロットルバルブではない、と分かった時は結構な衝撃でした。
M235iのエントリでも記載した通り、N55は効率化の為に気筒モジュール化される前の最後の6気筒エンジンです。エンジン屋であるBMWとしても、気合が入っていたんじゃないでしょうか。ついでにいうと、ノーマルのN55エンジンはシングルターボ(ツインスクロール)ですが、アルピナはこいつをN54同様ツインターボ化しています。
なんていうか、『やれることを全部やった感』がとてもいいです。
ミッション段数もF30から8速になりました。ATの段数が6速を超えると通常走行がやたら低回転になるので寂しくはありますが、数字はデカい方が強いと相場が決まっているので、これはこれで嬉しくなります。
加えて、ナビシステムであるiDriveの使いやすさはこの世代から格段に向上しています。図らずともこれは、納車直後にぶっ壊れたB3の代車としてやってきた、E61型5シリーズで痛感することになります。使いにくいというか、反応が遅かった。
◇
あれこれと列挙しましたが、突き詰めますと買った理由は「この車となら心中できる」です。美し過ぎます。
なお、試乗しないで買うことは、ギターで考えが変わり、抵抗がなくなりました。探し狂っていたJames Tyler USAのClassicを買ったとき、試奏は一応しましたが、好みだろうが好みじゃなかろうがどのみち買うつもりでいました。実際好みではなかったんですけど、そんなものは弾いてりゃ慣れますし、今ではメインギターです。ストラトはストラトの形をしていればストラトの音がします。
加えてこの車はアルピナです。定期メンテさえされてりゃあ悪かろうはずがありません。
営業さんからの「F30は丈夫だからそう壊れませんよ!弱点はチャージパイプくらいだと思います!」という言葉も最後の後押しになりました。なおこの言葉は盛大なフラグと化して後日私に襲いかかってきます。
そんなわけで、私はアルピナを買いました。
納車されてから爆弾が炸裂したおかげで30万円近い修理費が発生しましたし、エアコン作動時に変な音がする症状は未だに直っちゃいませんが、買ったことは何も後悔しておりません。売れっ子のキャバ嬢にハマったと思うことにしています。走行性能に関しては折り紙付きで、ダラダラ走った時の楽しさ、長距離巡航能力、エクステリア・インテリアの美しさ、サンルーフオープン時の心地よさ、求めていたすべてを兼ね備えています。
背筋が伸びる車でもあるので、いい意味でちゃんとお金をかけながら、楽しく乗っていきたいと思います。
◇
オチ代わりに、「M3を見に行った」と呟いた後日、友人のRX-8乗りが「何故か今現行M3が手元にありまして、横乗りでよければいかがです?」と連絡をくれ、G80型M3に乗っけてもらいました。代車だったそうです。代車でM3って。
「M3も踏み込まなければ普通の車」と分かったことが、近年モデルのバカトルクセダンを買う後押しになってくれました。思えばこれに比べても、B3は踏み込んだ時のトルクの立ち上がりが穏やかでした。アクセル開度のセッティングなんだろうか。
次回以降は地獄の故障対応とそれを平気で上回ってくるB3の心地良さについて書きたいと思います。
なお、これを書いていた途中、新山のB3のタコメーターが当然不動に陥り(針が1,000rpmを指したまま動かなくなった)、翌日しれっと直るという怪現象を経験しました。自前の(!)コンピュータ診断の結果、「回転数はちゃんと拾っているようなので多分メーターを駆動させるモーターの故障とかだろう」と話していました。つくづく業の深い車です。
梁井・新山、アルピナを買う。その2。
購入記その2です。
※写真は「今何でもいいから一台選べ」と言われたら間違いなく手を伸ばすレクサスIS500
仕事で大事なことは「最初の一手にはさっさと着手すること」で、それが資料作成ならファイルを立ち上げて名前をつけて保存する、調べものならググるか関連文献を漁る、ヤフオクへの出品が億劫なら、写真を取ってアップロードまで済ませる。ーーエンジン始動と同じで、初爆さえ済ませれば、アイドリングでスムーズに回ってくれるものです。
車の買い替えにおいては、「気になる車をとりあえず見に行く」が最初の一手に当たると思われます。
逆に言ってしまえば、見に行けばそれは事態が本格的に動き出すことを意味し、M3の実車を拝んだことで私の購入意欲はブーストされ、私は腹を括って、コペンの後継車について真剣に絞り込みをかけ始めました。
※すべてを超越する車コルベット。写真はC5。この車に乗るにはまだ"漢気"が足りない
ただ好きな車を挙げているだけでは決めようがないので、次に買う車には下記の要件を課すことにします。
①コペンと被るところがなく、②ライフステージが変わっても手放さずに乗り続けることが可能で、③ライフステージが変わらなくても死ぬまで乗り続けそのまま心中しても構わないと思える車。これです。
具体的にいうと、大トルクで、4シーターで、オートマチックで、『ハチャメチャに浪漫があってテンションがぶち上がる車』です。
ロードスター、ボクスター、エリーゼなどのライトウェイト系オープンカーは①②が該当しません。それならコペンに乗り続けりゃいいです。
漢の浪漫コルベットは、③は申し分ありませんが②がやや厳しいものがあります。
コルベットへの憧れがもうちょっとだけ強ければ、③の憧れが②をかき消すことも出来たかもしれませんが、……コペンでの9年間で「後部座席があればどれだけ楽なんだろう」という妄執に囚われ続けたことで、②を重視した方が車への満足度と、何より買い換えるに足る動機になり得るだろうと判断しました。如何に2シーターの方が趣味性が高くとも、4シーターでもおもしろい車なんざ世の中にたくさんあります。
③に関してはあくまで心意気の話で、『物理的に維持可能かどうか』はあまり考えておらず、その意味で、電子制御の入りまくった近年モデルが大半を占めました。本当に一台を維持し続けて死ぬまで乗るなら、構造がシンプルで、メカの維持だけを考えればいいクラシックモデルに限ると思います。
ちなみにM3は上記条件をほぼ兼ね備えてはいたものの、「もっかい見に行こうかな…」と思ったときにはすでにSOLDになっていました。縁がなかったものと思われます。
①②③を勘案した結果、まず俎上に上がってきた車はS5カブリオレです。
エンジン: 2,994cc V型6気筒DOHC スーパーチャージャー
ボディサイズ:全長 4,655 × 全幅 1,855 × 全高 1,375 mm
ホイールベース: 2,750mm
トレッド:前/後 1,580/1,570mm
タイヤサイズ:255/35R19
車重:1,990kg
最高出力:333ps(245kW)/5,500〜6,500rpm
最大トルク:44.9kg-m(440N・m)/2,900〜5,300rpm
まだオープンへの執着が残っていた頃と思われます。
宇宙船を思わせる、シンプルで美しいリアのライン。2012年からマイナーチェンジで現代的になったフロントフェイス……。初代後期の8T型S5カブリオレ。
アウディの良さは安藤のA3で身に染みてわかっていたので、当時の最有力候補でした。シックでありながら『良いものに触れている』感に溢れる内外装は上品で、4シーターオープンはずんぐりとしたフォルムになりがちなのにも関わらず、アウディのデザインはボディーラインに曲面が多いせいか、カブリオレにしても独特の色気があります。
すごくいいと思ってはいたものの、③の心中性は、やや足りないように思えました。何より『4シーターオープン』という良いとこ取りなパッケージングに対して、「そんな安楽なものを手にしてしまっていいのか…?」という逆張り精神が働きます。正解過ぎる車です。ついでに「3.0Lスーパーチャージャーに2.0tの車重はちょっと重いよな」という考えから、
「4シーターでも、もう少しバカバカしいやつがいい」
という指向性が生まれてきました。
ふらっと行ける近場に出物がなかったのも見送った理由です。この辺り、本当に出会いとタイミングだと思います。
◇
次に思い出したのが初代IS-Fです。これは実車を見に行きました。
5.0L NAのV8エンジンを、ボンネット下に無理やり押し込んだセダン。M3より凶悪さは控えめで、排気量はこっちのが上です。その出自と浪漫は前述の通り。エクステリアもシンプルで好きです。
これはかなりいいんじゃないかと思っていましたが、IS-Fの在庫を複数台持っていた地元の中古屋さんに突撃したところ、営業対応があまりにもアレだった為、私はこれをスルー。ショップのGoogleレビューに「謎のにーちゃんにねちねちと嫌味を言われて興奮できる人ならオススメかもしれません!」と書き殴りたくなる気持ちを押さえ込み、一旦引くことにしました。
気長に他店のIS-Fの出物を待つか、もしくはフットワークの良さそうな4シーターということで、「BMW M235iの認定中古でサンルーフ付きのやつが出てきたら見に行こうか」などと考えていたところで、ふと、現行ISのマイナーチェンジ後のレビューを発見しました。
2020年末にビッグマイナーチェンジを果たしたIS300、どのレビューでもはちゃめちゃに褒め倒されています。
◯レクサス IS300
ボディサイズ:全長 4,710 × 全幅 1,840 × 全高 1,435 mm
ホイールベース: 2,800mm
トレッド:前/後 1,580/1,570mm
タイヤサイズ:235/40R19
車重:1,650kg
最高出力:245ps(180kW)/5,200〜5,800rpm
最大トルク:35.7kg-m(350N・m)/1,650〜4,400rpm
『プラットフォームとパワートレインを変更していないのでフルモデルチェンジではない』としながら、このタイミングで『3シリーズやCクラスを超えるフィーリング』とまで称された、国産のスポーツセダン。
売れ筋のハイブリッドモデルである300hより、エントリーモデルで純ガソリンエンジンの300を絶賛している記事が多いことを見ると、当然露出を高める為に広告宣伝を打ちまくっているであろうものの、ストレートに走行性能の出来が良かったものと思えます。
ボディーサイズは3シリーズとほぼ同じです。F30型よりはやや大きい程度、G20型とはほぼ同等。元々ISは3シリーズよりコンパクトだと思っていたのですが、このマイナーチェンジで少し大きくなったようです。にも関わらず、リアのオーバーハングが短いせいか、ワイドながらコンパクトに詰まった、流麗なデザインに感じます。率直に好きです。
しかも国産です。世代落ちのドイツ車よりは丈夫で、部品代も安いでしょう。今でもこの点においてのみ、国産にしときゃよかったと思わないでもありません。
天下のトヨタが、ガソリン車の黄昏時代、徹底的に磨き上げて最後に叩き出してきた、Dセグメントのスポーツセダン。
スペックに派手さはありませんが、いいです。浪漫があります。
挙句、レクサスは2022年8月、5.0L V8 NAエンジンを積んだIS500の国内販売を正式に発表しました。
◯レクサスIS500
エンジン: 2UR-GSE型 4,968cc V8 DOHC
ボディサイズ:全長 4,760 × 全幅 1,840 × 全高 1,435 mm
ホイールベース: 2,800mm
トレッド:前/後 1,580/1,570mm
タイヤサイズ:235/40R19 265/35R19
車重:1,720kg
最高出力:481ps(354kW)/7,100rpm
最大トルク:54.6kg-m(535N・m)/4,800rpm
実質IS-Fの復活です。
2021年12月14日、バッテリーEV戦略についての発表会で、新モデルのEV16車重をデカデカと発表したトヨタ・レクサスが、V8 5.0L NAとかいう、極めてトラッドなエンジンをぶち込んだスーパースポーツセダンを、ここに来て日本で発売する。何ともファンキーなアティチュード。
おそらく新型ISの評価の高さが国内で、特に自動車ジャーナリスト経由で車好きの購入検討者の間で広まるのを、じっくり待ってからの500導入を狙っていたんじゃないかと思います。最近のトヨタは本当にこういう演出が上手いというか、痛快です。
トヨタの技術を結集したガソリンエンジン・スポーツセダンの極地としてのISがここに来て出た。
これは買う意味があるんじゃないだろうか。
1年くらいお金を貯めてIS300を、または、とち狂う覚悟ができたらIS500を、心中するつもりで買って死ぬまで乗る。
クラシックなコルベットを死ぬ気で直しながら乗ったり、エアコンレスの初代エリーゼを春秋の晴れの日だけ乗ったり、ハードコアな車人生に飛び込むのもよいですが、新車で買ったと思しきクラウンに乗り続ける老夫婦のような、アティチュードが好みの現行車を買って乗り続ける楽しみ方もよいのではないだろうか。
◇
などとつらつら考えながら過ごしていた7月。私は衝撃のツイートを目にしました。
続きます。
梁井・新山、アルピナを買う。その1。
購入記です。
「あのM3、まだ売れてないみたいだよ」「へえ」という会話を交わしたことが、記憶を遡る限り、『アルピナを買う』という暴挙に至った一番最初のきっかけであったと思われます。
2022年6月19日、友人・新山のサファリに乗って、栃木県小山市に蕎麦を食べに行った帰路でのことでした。
※小山の蕎麦屋、 『日の本家』。大根そばとは栃木の郷土料理で、大根の千切りでボリュームアップしたもりそばのことです。蕎麦の喉越しと大根のザクザクとした食感が激うまでした
茶店に寄ってコーヒーをしばきながら、私が「コペンの後継を考えている」「外装がシックな車がいい」「長距離が楽で、排気量がデカイとなおいい」みたいなことを話していると、新山がスマホをスッスッと弄って画面を見せてきました。冒頭のセリフはそのときのものです。
家の近所にあるBMW専門ショップの在庫車一覧ページです。その中に、E92型のM3クーペが載っていました。
左ハンドルの6速マニュアルで、サンルーフ付き。走行距離110,000km。たしか300万円ちょっとだったと思います。以前、「結構安いね」と話題に上がった記憶があります。
「どう?」
「どうって……。おれ『外装が大人しい車がいい』って言ったんだけど」
「え? これダメなの?」
ダメではないのですが、いささか見た目が凶悪過ぎます。
新山さんは「信じられない」という目を向けて、
「M3だぜ? しかもこれV8のNAエンジンだぜ? 4.0Lで、大排気量だから低回転域でも余裕あるし、クルコン付だから高速巡航もお手のもの。オートマ感覚の気楽さと、マニュアルの楽しさ、どっちも手に入る。しかもサンルーフ付き! こんなん、この値段で絶対出てこないよ!」
軽量なカーボンルーフが強みの1つであるM3にとって、スポーツ走行を意識した左のマニュアルなのにサンルーフ付き、しかもクーペという出物は、たしかに珍しい気がします。
相場より低い値段は走行距離に依るものでしょうし、買えばメンテにそこそこの金がかかるお年頃であることは予想してしかるべきですが、昨今の「乗れるうち 乗っておくべき ガソリン車(大排気量NA)」という世情からすれば、おそらく丁寧に乗っていけば価値は下がらず、下手すれば高騰する可能性まであります。
……という話を、コーヒーも冷めやらんうちに捲し立てる新山氏。どっちが車を探しているのかわかったもんじゃありません。
「すごい熱量だね」
「まあ、その、フーガを買ったくらいの値段でこれが買えたのかと思うと、少しね」
シルビアからフーガに乗り換えた当時のことに思いを馳せます。新山曰く、「あのときはマニュアルのクーペには目も向かなかった」とか。それならシルビアから乗り換える意味ないじゃん、というのが理由です。シルビアとサンバー→フーガ→サファリ→B3(6MT)という流れは、彼にとって必要な遠回りだったのでしょう。
ともあれ、言い知れぬ圧力を感じた私は、ついに禁断の言葉を口にしました。
「……ちょっとだけ見に行ってみる?」
「お! いいね!」
嬉々としてコーヒーを飲み干す新山氏。訓練途中で今すぐ戦場に行けと言われた新兵のような気持ちになる私。
これがすべての始まりでありました。
おそらくこの発言がなければ、私は今でもコペンに乗っていたと思います。
◇
E92型のM3を間近で見たのはこの時が初めてでしたが、いかにも「でけえエンジン積んでます」と言わんばかりのボンネットの盛り上がりと踏ん張りの効いたフェンダーの張り出しが相当に凶悪で、「これはヤバイ車である」という空気が写真より濃密に伝わってきました。正直な話、実写を見た私の第一印象は「怖い」でした。
◯ BMW M3 クーペ(E92型6MT)
エンジン: S65B40A V型8気筒
ボディサイズ:全長 4,620 × 全幅 1,805 × 全高 1,425 mm
ホイールベース: 2,760mm
トレッド:前/後 1,540/1,540mm
タイヤサイズ:245/40R18 / 265/40R18
車重:1,630kg
最高出力:420ps/8,400rpm
最大トルク:40.79kg-m(400N・m)/3,900rpm
※この世代のクーペはテールランプの形状がセダンと大きく異なり、伸びやかなラインがカッコいいです。
すっかり怖気付く私をよそに、新山さんは運転席、助手席、後部座席と座り心地をそれぞれ試し、トランクを開けて容量を確かめ、エンジンルームを開けては「おー」だの「ほー」だの言っています。一応、エンジンをかけさせてもらって、暖気を待ってからアクセルを吹かして見たりもします。
冷間始動からエンジンが暖まるまでは「ゴボボボボ」という詰まったようなアイドリング音でしたが、1、2分もすれば澄んだ音に落ち着きました。一応この型の冷間始動〜アイドリングの音をYouTubeで聴いてみましたが、こういうもののようです。ちなみにF30も同様です。
「見た目の凶悪さに反しM3は普通に乗る限りは普通の車」という営業さんの言葉を聞きつつも、正直、この車に乗って長距離をダラダラと突っ走るイメージが湧いてきませんでした。大排気量にもかかわらず「意のままに動くハンドリングマシン」とベスモで称されるM3です。やっぱりワインディングが好きな人の方が向いていそうです。
オープンからの乗り換えになるのでサンルーフの開口具合も確認しましたが、頭頂のやや後ろで開口が停まるので、開放感は物足りないところがありました。『M3』による運転席における精神的なタイト感もあったかと思います。
お店には一見にもかかわらず丁寧に応対いただきましたが、この日は辞して退店しました。
◇
「いやー行ってほしいけどねM3ー」
「いやいやいやいやいや」
冷静になる為にコペンに乗り換えて、ルーフをオープンにして近所を流しながら、先程の振り返りを行います。
「おれが梁井なら絶対買ってるんだけどなーM3。どこがダメだった?」
ちなみに後日M3ではなくアルピナを買った新山に理由を聞いてみたところ、値段の他に『音があまり好みではなかった』と述べていました。騙しやがったな…。
「見た目の凶悪さと、大排気量ならオートマが良かったのと、屋根が開かないのと……。いろいろ相まって、『絶対にこれがいい』とまでならなかったからかな。BMWはいいなと思ってたけど、Mほど凶悪なやつは考えてなかったし。乗ったら楽しいんだろうけど、コペンから降りてまで買い換えるとなると、ちょっと……」
踏ん切りがつかなかった、というのが正直なところです。
「結局、一番の理由はオープンへの執着かも。こうしてコペンに乗ってみて思うけど、やっぱりオープンカーが日常からなくなって、平静を保てる気がしない」
「まあ、わかるけどね。でも、そこから離れるとまたいろいろ経験広がると思うよ」
ボボボボボ、とコペンがエグゾーストを奏でる交差点で、新山さんが何気なく発した上記の言葉は、最終的に私がオープンを降りてバカトルクセダンを買うに至った結構な後押しとなりました。
気に入ったツールをずっと使い続けるのも良いけれど、別の属性に切り替えることで、新鮮味を持って得られる知識だったり経験だったりフィーリングだったりは絶対に存在し、それを積極的に取りに行こうとすれば、人生の幅はより広がるだろうと……。さすが「理解りたい」という欲求の下に1年半で4台の車を買った男は言うことが違います。
◇
今回のオチとして、新山さんはこの翌日、「M3のシートにスマホを忘れた」としてショップに再度訪れていた、という事実を書き添えておきます。
※初訪問時、すでに冷静さを失っている図
本人は「本当に忘れただけ」と言っちゃいましたが、私は奴が、この頃から「あわよくば」と思っていたのだと信じて疑いません。
続きます。
BMW ALPINA B3 3.3 Limousine E46。
私のB3・F30型が絶賛入院中でありまして(詳細は後日別エントリで述べたいと思います)、暇と悲しみを紛らわす為、今回は同日に納車された新山氏の新たな愛車、B3・E46型について記したいと思います。
◯ BMW ALPINA B3 3.3 Limousine E46 (2002年式6MT)
エンジン: S52B32 Turned by Alpina 3,299cc(E36型M3北米仕様搭載エンジンのチューンド)
ボディサイズ:全長 4,470 × 全幅 1,740 × 全高 1,395 mm
ホイールベース: 2,725mm
トレッド:前/後 1,470/1,475mm
タイヤサイズ:225/40R18 / 255/35R18
車重:1,480kg
最高出力:285ps(kW)/6,200rpm
最大トルク:34.2kg-m(N・m)/4,500rpm
2014年、走行距離126,700km時に下記の交換実績あり。
エアーエレメント/MTオイル/デフオイル/ブレーキオイル/フロント及びリアのブレーキローター/EGルームバキュームホース/アルピナシャシーキット/ヘッドライトレンズカバー
2015年、走行距離127,590km時
エンジンオイルフィルターハウジングガスケット/70Aバッテリー
2016年、走行距離140,921km時
エンジンヘッドカバーガスケット
2020年、走行距離164,891km時
ステアリングラックブーツ
◇
2022年8月6日。走行距離178,600km時。私のF30と同店同日での納車となりました。下記はそのときの記念写真です。
車を探していたのは私の方とは言え、先に契約したのは新山ですし、あくまで追っかけたのが私とも言えるのですが……ともあれ、アルピナの同日納車はさすがに前例がないらしく、営業担当氏が日取りを合わせてくれたようです。当日「絵面が笑えるので記念に写真を撮らせてほしい」とおっしゃられ、上記の記念撮影となりました。良い思い出です。
稀少なマニュアルミッションのアルピナです。結構な争奪戦になることも予想されて然るべきでしたが、結果として、店頭で発見した新山さんがわずか1週間で掻っ攫っていきました。この辺りの紆余曲折はあまりに面白過ぎるので、別途購入記のような形で書き残しておきたいと思います。
兎に角して、この日よりバイエルンに魂を売り渡したアルピナブラザーズ2人は、それぞれエンジンチェックランプの点灯に慄き、オーバーヒートに肝を冷やし、経年と過走行から来る不具合をモグラ叩きのように一つ一つ潰しながらも、『セダンの極致』と言うべきアルピナの走行性能を味わい尽くさんと、東北やら北陸やら中部やら、津々浦々を走り回ることになります。
◇
しかしながらそもそもの話、何故新山さんは念願のサファリを手放してまでB3に飛びついたのでしょうか。
「魔が刺した…とでも言っておこうか」
「リボルバーオセロットみたいなこと言ってるけど、『手が滑った』だからね、その台詞」
E46でのドライブ中に尋ね、返ってきた答えがこれです。どうも衝動買いに近しいようです。
「衝動……いや、その、まあ、衝動買いと言ってしまえばそうなのかな? ただ、前からBMWのマニュアルモデルを探してはいたんだよ。だから、漠然と探していたものに対して、ドンピシャで適合する車が出ちゃったからっていうのが一番じゃないかな」
「出物があったからだと」
「そう。さっきの『飛びついた』っていうのが、一番しっくりくる表現かもしれない」
大排気量NAエンジンの、低重心で運動性能に優れるセダンまたはクーペレイアウト。しかもマニュアルミッションで、極め付けは『広義の意味で走行性能に振り切ったメーカーであるアルピナのB3』が、近くの店で、しかも自社工場を持つ専門ショップに格安で現れた、というのが理由だそうです。
「格安の理由は過走行だけど、きちんとメンテナンスされてた車ってことは点検簿を見て分かったし、であれば、走行距離そのものは問題にならないことは、シルビアとサファリでよくわかってたからね」
(注:シルビアとサファリが殊更に頑丈だったことを後日痛感することになる)
「サファリに不満は?」
「ほぼなかった。低重心のマニュアルモデルじゃないってこと以外は。全体的に車としての基本性能が素直で気持ちよかったし。だけど、『これを逃したら同じような条件の整った車には二度と乗れない』と思ったから飛びついた。それに尽きるかな。『アルピナなら間違いないだろう』っていう信頼感もあったし、事実満足してます」
「買う前に確認したことは?」
「アクセルレスポンス。この車は電子スロットルだし、別に鋭敏じゃなくてもいいんだけど、変な制御が入ってないか、自分のフィーリングに合うかどうかは事前に確認したかった。そこはフーガで合わなかったところだから…。空吹かしと、ショップの敷地内で動かさせてもらった限りじゃ問題なし。買った後自分でエアクリ変えたら応答速度もめちゃくちゃ速くなったしね」
「ちなみに、もしかしたらこれが『アガリの車』かもしれないけど、それでも次に車を買うなら?」
「ディーゼルエンジンでマニュアルミッションのサファリ」
業が深いです。
◇
続いて所感いきます。
まずもってこの車、エンジン始動音からしてデカいです。
「排気音はマフラー換えたシルビアが断トツで大きかったけど、始動音はB3の方がすごいね」
「芝居っ気がないよね。3.3リッターの鋳鉄エンジンを叩き起こしてる音がする」
F30も冷間始動時はぶったまげるような爆音ですが、通常始動音は大層大人しいです。E46は冷えていようが暖まっていようが轟音を響かせながら始動します。
エグゾーストにおいても、中々にお元気な音を響かせながら走ります。太さはあれども、低音で押してこない、ハイミッドが効いてる音がします。
動きも軽やかで、シルビアより280kg重いのに、軽快さはB3の方が上のように思えます。この辺りは、BMWの誇る前後重量配分50/50がそうさせるのか何なのか。
それでいて直進安定性というかスタビリティというか、どっしり感というか、安定感もあるのがB3です。
「シルビアとフーガの合いの子みたいだ」というのが新山さんの談でした。
シルビア寄りなのがE46で、フーガ寄りなのがF30というのが私の所感です。世代も近いですし、いささか短絡的ではありますが…。
続いて、おそらくこの車一番の特徴であろう、エンジンについてです。
「ちょっと古いエンジン使ってるんだよ、このB3。ーー先代E36型の、北米仕様M3にだけ載せられてた『S52B32』をアルピナが独自に組み上げたやつ。アルピナは大体、その世代の最先端エンジンのうち、『M仕様そのものを除いて』なるべく高性能なやつを使うんだよ。で、そいつのシリンダーブロックを元に、クランクシャフトやらピストンやらを自作して、ボアアップしたエンジンを組んで載せるんだけど……、こいつに限っては何故か『先代の』、しかも北米用に出力を抑えたものとはいえ『M3の』エンジンを載せてんの」
「湾岸ミッドナイトにおけるL型エンジンの理屈と同じだよね。要するに、新開発のアルミブロックより、頑丈でチューニングに対する許容性と耐久力に余裕のある鋳鉄エンジンを選んだんだよ。で、アルピナが目を付けたのが、スペックよりも長距離走行に対する頑丈性を意識して別個に用意された、北米仕様M3のエンジンだったわけだ。いいよね。あえて旧型をチューンナップして組み上げた専用エンジン。浪漫がある」
「それはよくわからないけど……。あとそうだ。この車、アルピナとしてのエンジン型式が、なんと『E46』なんです。偶然だけど、元車の型式と同じなんだよ。前期型だとE44だったりするんだけど。ほら、車検証」
ばっちり『E46』と表記されてあります。
ちなみに私のF30前期型のB3は、アルピナ独自のエンジン形式が『N55R20』。BMWはエンジン型式の採番に厳然としたルールがあるのですが、アルピナは果たして…。
『左のマニュアル』であることに対しては、やはり慣れるまでは「免許取り立てに戻ったような気分」だったらしいですが、1ヶ月もするとシルビア時代と変わらないリニアなシフトワークを決めておりました。この辺りは慣れなのでしょう。
「通勤なしのレジャー使用のみだけど、納車から3ヶ月、何キロ走ったの?」
「8,000km」
毎週末600km計算です。この車を買って満足しているかどうかの答えとしてはこれで十分でしょう。羨ましい。私は半分入院中で2,000kmも走れてないですけど。
「最後に、この車の今思う一番好きなところは?」
「うーん……今一番思うところだと、弄りやすさかな」
まさかの答えが返ってきました。
「走りのフィーリングとかじゃなくて?」
「それももちろん気に入ってるけど、一番実感してるのは兎にも角にも弄りやすいこと。各パーツのレイアウトとか、弄りたい箇所へのアクセスのしやすさとか。具体的にいうと、内装の留め方が、全部ツメの嵌め込みじゃなくて一部ビス留めだったりとか……。そういうところが自分の感性に合うんだよね。ドイツ車の特性なのかBMWの設計思想なのか分かんないけど。触ってて『おおー』となるし、だからもっと弄りたくなるというか」
それはもはやアルピナじゃなくてBMW E46の特性ではないかと思うのですが、当人が気に入っているなら何よりです。
実際、購入以来ほぼ毎週末、E46はどこかしら手を入れられており、ショップでパーツを取り寄せては自宅でDIY作業を敢行している新山は、ショップの営業さんから「メカニック新山さん」なるニックネームまで付けられている始末です。
彼のE46弄り奮闘記については、後日機会があったら書き記したいと思います。ほとんどは経年に対するプラスティックパーツ及びゴム類劣化の対応なのですが……。
※「ショップから近いから」という理由で我が家の目の前でサンルーフの修理を敢行する新山氏
続きます。